空が綺麗ですね、あなたも何処かで見てるんでしょうか
0. Dear.世界の何処かに居る師匠
ふと上を仰げば、見事な程茜色に染まりつつある空が視界いっぱいに広がった。
肌を撫でる風も冷たさを帯びて、夕日の茜色を纏いつつ深い藍色の髪が宙を舞う。
一人の女性が、真っ黒な独特の装飾が施されたコートを身に纏いつつ、一つのベンチへ背を凭れさせている。
静かに真っ白い紙面へペンを走らせていた。
その上に書かれていたのは綺麗に綴られた英文。
少々癖のある字体であったが読めない程酷いわけではない、寧ろ流れる様な感覚を漂わせている字体。
真っ白い紙面全てに書き終えた女性はそれを丁寧に折り込み、一度その紙を手に持ったまま眺めていたが不意に両手で二つに破く。
次々と破られていく紙は元の大きさよりも大分小さくなり、最早中に書かれていた文も読めない程。
小さな紙くずの山が出来て、白い山を両手で掬い上げて宙に掲げた。
ザァ――と、一瞬強く吹いた風にその全てが乗り茜色が深まり始めた空へ舞っていった。
女性は薄紫色を宿した瞳で紙くずが空を舞っていく光景を眺めつつ、再び視線を膝元へ落とす。
こうする事で、あの人に手紙が届くわけでもないのに
自嘲気味な笑みを口元に描き、女性は軽く息を吐いてから再び空を仰ぐ。
ゆっくりと、ゆっくりと茜色の雲が流れてゆく光景はとても心を落ち着かせてもくれるし、同時に暮れ行く空が寂しくも思う。
世界の景色はこれ程綺麗なのに、何処かではやっぱ汚いのだろう。
世界は全て完璧じゃない。人間も完璧じゃないんだ。
静かに瞼を閉じてから真っ黒なコートの襟を立てて、深く沈み込むように僅かな寒さで強張っていた背筋の緊張感を和らげる。
温かなコートの温もりに微かな睡魔が襲ってくるがこの場所では眠れない。
此の町には何かが出るらしいから
「………そろそろ行くか」
女性特有の柔らかさを少々湛えた、けれど少年のような低さを湛えた声色で女性は紡ぐ。
風で乱れた髪を手櫛で直しつつ、再び空を見上げようとしたけれど顔を上げようとして、辞めた。
何度空に恋焦がれたって、所詮私は辿り着けない。
コツコツとブーツの音を立てて、十字架の中心に薔薇の様な花があしらわれたマークが胸元に目立つコートの裾を翻し灯りが灯り始めた方向へ歩を進め出す。
そう、そのコートは悪しき 禍々しき者達を葬る聖職者の証
戦う事を強いられる 強くも悲しき証
――師匠、本当あなたはどうして急に消えた
一度瞼を軽く伏せて、小さく溜息を吐いた後。
遠くの方で自分の方へ向かって手を振る二人の親友の姿を見つけ、も笑みを浮かべながら歩む速度を速めた。
Dear.世界の何処かに居る師匠
私達は一応生きるなりに生きてる、でも時々道がわからなくなるんだ
その場合はどうすれば良いんだろうね?
序章.終
序章終了、ということで今晩は!
Dグレは世界観的にも、物語的にも好きなのですが難しくて…
兎に角他連載もあるので更新遅くなるかはどうか定かではありませんが、心広くお待ちいただけたら嬉しいかなぁ…と(腰低い
複数ヒロインも実は扱うの初めてです、勢いでやったけど大丈夫かな……!
それでは、一箇所でも多く心残るシーンを書けるよう頑張って行きたいと思っております。
陰ながらでも応援して頂けますと嬉しいです…!
2006.9/8