「――…ッやめろ!」




一体それが誰の声かわからない






気がつけば探索部隊の人を殺そうとしているアクマに向かって駆け出したアレンを追って、






























12. 少女身を捨て、神なく夜



























手ごたえはあったはず。

アレンはイノセンスを発動させた左腕を探索部隊の男性の頭を踏んでいたアクマをどうにか離れさせようと思い切り叩き込んだ。

しかし、目の前に佇むアクマを左目で映した時に一瞬何時も戦っているアクマと何処か違う違和感を感じ怪訝な顔を浮かべる。

直後、確かにイノセンスで攻撃したアクマには一切の傷も付いておらず相手はニッコリと、とても似つかわしくない笑みを浮かべアレンの腕を掴んだ。


「何、お前?」


この世界には存在するとは思えない禍々しさを含んだ声で言葉を紡いだアクマ。

アレンは背に冷ややかな物が伝わるのを感じながらも、怯まずにアクマを睨み付ける。

だがアクマはそのまま彼の身体を思い切り蹴り飛ばし、防御しきれなかったアレンは離れた家屋の壁に打ち付けられてしまった。

その光景を屋根の上から眺めていた神田、そしては微かに眉を顰めアクマの様子を窺う。





明らかに、何時も見るようなレベル1のアクマとは違う





姿形の事もあるが、何処かが違うとしか言い様がなかった。

そう、あのアクマの魂と言うべきか。

はゆっくりと右腕を長いコートの袖から出すと、宙へ右腕を掲げ瞳を閉じる。

チャリ、と彼女の手首に巻かれた月の灯りに照らされて鈍色に瞬く鎖が小さく鳴り完全に闇夜の中に曝け出された。

神田はへ視線を向けていたが、其の右手の有様に僅かながらに息を呑み不意に其の右手から視線を逸らす。

酷く、イノセンスが禍々しさを帯びているようで。

同時に静かな彼女からはとても想像の付かないイノセンスだ、と思えた。

パキンと音が鳴り響き彼女の右手には教団前で互いの武器を交えた際に見た大きな鎌が有り、其れを肩に担いだは急に口を開く。


「君は人形の方を、俺はアレンの手助け行ってくるから」

「アイツは勝手に行ったんじゃねェか、放っておけ!」

「じゃあ俺の事も見捨てて良い」


ガッ、と屋根の端にブーツの踵を預け彼の方を振り向けば咄嗟に左腕を彼に掴まれ、驚いた。

彼の表情は何時もと違い、酷く。何故か辛そうな色を瞳に湛えていて。

思わず右腕に込めていた力を弱めてしまうが、ぎりっと握り直し彼の手を振り払い神田を見据えた。

反抗されるとは思っていなかったのだろう。

それとも俺のこんな表情を見た事がないからだろうか。

その時の俺の眼はきっと、他人から見れば酷く冷たくて色の灯ってない感情のない眼をしていただろうから。

自分でも、わかってしまうんだ。


「俺一人なんかどうでも良いだろ、イノセンスを守る事が出来なければ探索部隊の人の命も。アレンや君の今後も台無しになるじゃないか」


多分、それは俺一人が犠牲になれば事は全て済んでしまうと受け取れただろう。

否、俺が初めからそうゆう考えを持っていたからそう受け取れるのが自然なのかもしれない。

何も言い返してこない彼から視線を外し、一歩を踏み出してから小さく紡いだ。


「まぁ、心配してくれてありがと」




次見た彼はきっと、怒ってるだろうなと小さく口元に苦笑を描いてから其の表情全てを消してアクマを睨み付けて




月の浮かぶ宙へ躍り出た










「――…ッ」

気がつけば既には地へ降りて巨大な鎌の形状を成したイノセンスを掲げ、レベル2へ進化したアクマへ向かい駆け出していた。

あの女はわからない。一体何故あれ程自分の事に関して…いや、自分が犠牲になる事を怖がらず。

寧ろ自らが犠牲になる事を進み出るような行動ばかりするのだろう。

教団前でアクマと間違いあいつ等を攻撃した際も、一番先に飛び出してきたのはだった。

彼女がもしアイツを庇わなかったら更にイノセンスへ多大な損傷を与えていたかもしれない。

しかし、自分の方が焦ったのを今でも覚えている。


は、イノセンスを発動しきれていない内にアイツを庇った


それはどれ程無謀なことかわかっているはずだ、元帥の話によればはエクソシストの中でも指折りの実力者。

ただ、誰かに眼をつけられることを嫌うということだけでその実力を発揮しないのだと。

だからあれ程の無茶をするのも、滅多にないだろう。

いや、アイツだから無茶をしてまでも庇ったというのか?


心の片隅に何故か、今まで感じたことのない焦燥感が生まれ気を紛らわすかのように小さく舌打ちを零し、神田は六幻を構えた。

レベル2のアクマはこの場はあいつ等に任せるとして、視線を人形の方へ向ける。

レベル1のアクマが二体。これだけなら直ぐに沈める事が出来る。

小さく息を吐き、心を入れ替えようと一度瞳を閉じて再び開き、す――と眼を細めた。


「いくぞ六幻」


 ―抜刀!―


六幻の漆黒の刀身に指を二本当て、静かに滑らせて行けば指がなぞった場所から鈍色に瞬く新たな刀身が姿を現す。

切っ先まで現れた其れは月の灯りを受けて綺麗に瞬いた。






「聞こえる?私の胸の音…興奮しちゃってるみたい!」


そう紡ぐアクマを眺めながらも、アレンは驚くことしかできない。

アクマは戦闘に快感を感じていて、どうも尋常じゃない。

それに左目に映っている、アクマの身体の中に内蔵されている魂の状態が悪化していたのだ。

途端、人形の方に居たレベル1のアクマの悲鳴がその場に響き渡る。

驚き其方の方へ視線を向ければ神田が発動させたイノセンス、六幻を構え宙を舞っていた。


「六幻、災厄招来…界蟲『一幻』!」


彼が振り抜いた六幻から能力の一つだろうか、奇怪な形状をした物が幾つも発生し。

それは奇声を発しながらレベル1のアクマの身体を貫き、破壊した。


「あ―っ!もう一匹いた!」




「ついでに俺も居るけど」


が右肩に担いだメリルシアを構え身体を反転させると同時に振り翳し、左足を軸にしてアクマを斬りつける。

ガギィンッ!と鈍い音が響き、入ったかと僅かに油断してしまった。

直後、妙な感覚が襲い勢い良く視界を上げれば気持ち悪い笑みを浮かべたアクマが、鎌の刀身を掴んでる。

そして一度視界がぐらついたかと思えば次に来たのは、吹っ飛ばされた感覚。


ッ!?」


背を激しく瓦礫の山と化していた家屋の壁に打ち付けられて、一瞬息が詰まるが左手を地につけて起き上がった。

不意打ちを狙ったのだが、アレンと同じ様に飛ばされてしまったようだった。

僅かに咳き込み、眩暈を感じた頭を振り気を入れ替えてアクマを見据える。

アクマは忙しなく神田が降りていった方角と、自分達の方を見ている。

どうやら神田が人形を連れて行くのと、俺とアレンを交互に見比べているようだ。

人形を追うか、俺達を先に殺すか。

しかし顔を醜くも歪ませたアクマは此方を向くなりあからさまな敵意を向けて、こう紡ぐ。


「とりあえずお前等を殺じてからだ!」


レベル2のアクマは自我を持っている。

何時だったか師匠からそう聴いた事はあったが、これほど禍々しい自我を持つとは思っても居なかった。

今まで戦ったこともなかったらからだろうが、これだったらよっぽどレベル1の方が楽だなと小さく溜息を吐く。


「助けないぜ、」


少しの間にも展開は進んでたみたいだ。

神田の声が聞こえた方を見てみれば、彼は二人の人を抱えた格好で屋根の上に佇みながら自分達へと視線を向けている。

アレンが少し間を置いた後、小さく「いいよ置いていって」と紡げば彼は一瞬自分の方へ視線を寄越して、去った。

一体何故自分の方を最後に見たのだろうか、と僅かな疑問も覚えたが今は此方が最優先。



「アレン、大丈夫か?」


少し離れた場所に居る彼に問いかけてみた。

すると彼は小さく笑みをつくり、「大丈夫ですよ」と返す。


こそ行かなくて良かったの?」

「いや、あっちが人数多いと色々と大変かと思って」


こっちの手助けすることにしたよ、と小さく笑みを零しメリルシアを構えなおすのと同時にアレンとは動いた。



向かい来るアクマの攻撃を受けて弾かれるアレン、同じ様に力が相殺し地に打ち付けられたアクマを追い駆け出す。

立ち上がったアクマへメリルシアを振り抜けば再び掴まれるが、それはもう想定内。

一旦メリルシアを手放し柄の部分を足場にして飛び上がり、アクマの背後へと回り込む。

手放したメリルシアはどうゆう原理なのか自分でもよくわからないが眩い光を零し、パキンと小さな音を立ててアクマの手から消えた。


「うえッ?!」


突然手から消えた鎌に驚き、アクマは一瞬の隙を生む。

このときを狙っての捨て身の攻撃だ、は瞬時に右手へ力を込めてメリルシアを再び呼び起こしアレンへ向かって叫んだ。


「今だアレン!」

「――ッわかりました!」


彼はイノセンスを発動させた腕で壁を掴み、勢いをつけたままアクマへ向かい放り投げた。

アクマはアレンの方を向き向かってくる瓦礫を素手で難なく破壊するが、その一つの瓦礫の上に彼が居ると思っていただろうか。

もイノセンスを構え、アレンと同時にアクマを斬り付けた。

呆気なく攻撃を受けたアクマの身体は何処か変だ。

いや、確かに先ほどまで居たアクマと同じ様に見えるが何処かがさっきまでと違う。

妙な胸騒ぎと同時に、傍に居たアレンの方を向けば彼も何かの異変に気がついたのか此方を見る。

一体、何処の何に俺達は違和感を感じたのだろう。



その時だった。




「ここ、ここ」





ギュッ、と誰かに背後から抱き締められるような感覚。

耳元で聞こえる声に何故か酷く聞き覚えがあり、振り返ろうとした瞬間右胸に何かが突き刺さる。



「―――ッうぁ?!」

!…ッそれに僕…?!」



確かに、視線を向けた先に居たのは間違いなく隣に居る筈のアレン






妙な、薄ら笑いを浮かべたアレンが居たんだ







身体を裂く様な痛みと同時に響くのは、戸惑いの心





















                                     2006.10/6










あれ、最初に考えてた展開から少しずれた所が(最後の所)
  原作通りでは面白くないかと思いさんに怪我負ってもらいました。す、すんませ…!
  この場面初めて読んだ時「ドッペルゲンガーか?!」と思ったりもしてました、いや今は違うとわかってますよ(笑
  そして相変わらず最近文がぐだぐだですみませ…原因が思いつかない…