せめて、これがマテールの亡霊と 彼女に恋した人に届くよう に
もう此の世界に来てから出ないと思っていた筈の涙と胸を締め付ける痛みが込み上がってくるようで、紛らわすために立ち上がり彼等の元へ歩んだ。
ララがグゾルを抱え歌い切った場所、アレン達が居る場所へ行けばララ達の元へ近付き膝を着いたアレンの姿が視界に入る。
は一度視線を細めてから神田達の脇を通り、アレンの後ろに佇む。
天井から差し込む光がララとグゾルを綺麗に照らし、まるで天の憂いを帯びたような美しさが其処に在った。
もう、彼等は動かないというのに、天は皮肉にも彼等を照らし続けるのか。
" ありがとう "
不意に聴こえた声が、ララの物であると気がついたのは彼女が自分達に向け微笑んでいる時だった。
その綺麗過ぎる笑みが酷く心の奥を締め付け、は再び零れ出しそうになる何かを押さえ口を噤む。
" 壊れるまで歌わせてくれて、これで約束が守れたわ "
そう言ったマテールの人形は、アレンへ向けていた笑みをの方に向け、こう紡いだ。
" あなたの歌も届いたわ。ありがとう、最後にとても綺麗な声聴かせてくれて "
「――――ッ、」
カシャン、と伝えきった彼女は其の身をアレンの腕の中へ横たわらせた。
は立ち竦んだままアレンの腕の中に居る人形から視線を逸らし、強く瞳を瞑る。
御免、俺はそんな綺麗なモノ 何も持って無いんだよ
そんな言葉はもう届かないのだろうとわかっていても、
彼女が認めてくれたとしても、自分の中で割り切ることが出来ないのだから。
は静かに瞳を開けて其の双眸を、自分達を照らす空虚な慈しみを齎す夜空へ向けた
刹那の時を生きる者達へ、せめて何か送る事が出来たなら
2006.10/22