「 ――ノアの一族だけは、気をつけておけよ 」









そう言った師匠の言葉を信じ続けていたけれど、






今ではもう何もかもが 虚偽の言霊にしか聞こえなく て

























22. 嘘誠の狭間

























「シ――――!」



突然ロードの近くに居た傘が焦った様に騒ぎ出し、終いにはロードに向かい怒り出す。


「ろーとタマ知らない人にウチのことしゃべっちゃダメレロ!」

「えー、何でぇー?」

「今回こいつらとの接触は伯爵タマのシナリオには無いんレロロ!?」


伯爵、という単語が出てきた瞬間は今まで彼らの会話を宙に視線を投げ出しながら聞いていたが、僅かに眼を見開いた。

千年伯爵は、エクソシストの敵であり人類の敵であり、この世界の終焉のシナリオを演じるべく闇を広げる者。

過去に師匠から聞いていた話と、教団に入ってから自分なりに調べてみたことにも全て通じること。



だからこそ、そいつが悪であり世界の秩序を乱す者 と



知らず知らずの内に手に力を込めていたようでギシッ、と自分の手を拘束する忌々しい鎖が音を鳴らす。

そのまま腕を捻れば更に鎖同士が擦れ合う耳障りな音が響き、腕が痛みを訴えるがこれがどうした。

この状況を打開しなければ何も事は進まないし今まで進めてきた事が全て台無しになるかもしれない。

帰る、場所は失われようとも二人の親友が居る限りは生きて、笑みを返して、そして。







また、笑い合おうと約束したのにここで止まっていられないんだ







ガァン!と壁に打ち付けられていた杭ごと拘束した鎖を力任せに引き抜き不完全な形状のメリルシアを発動させ腕に巻きついたままの鎖を破壊。

暫く動かせなかった為に鈍っていた腕は無理矢理に鎖を壊した為、至る所から血が流れ荒くささくれ立った傷が在る。

だが、未だ脚に巻きついたままの鎖を壊す気力も起こらずだらりと両腕を下ろした格好のまま、ロードの方へ視線を向けた。

何時の間にか此方を向いていたロードとアクマが酷く驚いた表情を浮かべ、を見ていたが急に彼女らの後方からも壁を破壊する音が響く。

アレンが何本もの野太い杭に打ち付けられていた腕を引き抜いたのだ。

二人の様子を交互に見比べてからロードは静かに笑みを浮かべ、口を開いた。



「何で怒ってんのぉ?僕が人間なのが信じらんない?」



静かにそう淡々と語るロードを荒んだ視線で睨み付けるアレンの方を向き、ゆっくりとしゃがみ込み彼の首元に抱きついた。

アレンの身体に伝わるのは彼女の心音と、そして認めたくもない心地良い人肌の温かみ。

ドクン、ドクンと鳴る心音は生きる者の声でもあり、証明。


「あったかいでしょぉ?人間と人間が触れ合う感触でしょぉ?」

「――…ッ」


目の前に居る少女は確かに自分達と同じ人間であり、温かさも持つ本当に普通の少女としか思えない子供。

それなのにアクマと共に居ることが当然のように振る舞い、奇怪な笑みを浮かべる少女。

一体、敵なのか同じ人間なのかさえも。

動揺と混乱が織り交じる思考のせいでロードの背に向けたイノセンスの腕が形状を正常に保てなくなり、ノイズが混じるようにぶれ始める。

イノセンスは適合者の意思の影響を受けやすく、同時に適合者の心情を表しやすい物質。

恐らく、今のアレンの心情に呼応しているのだろう。


「同じ人間なのにどうして……」


そう紡いだアレンの言葉に反応し、ロードは口元に奇怪な三日月型の笑みを浮かべた。





「"同じ"?それはちょっと違うなぁ」





彼女はそう言うと同時に背に向けられていたアレンの、イノセンスを発動させていた腕を引きあろうことか。

自分の顔に突きつけるのと同時にバァンッと爆発が起こり彼女の顔は見るにも耐えられぬ程焼け爛れ、その身は後方に投げ出された。

アレンはロードが自らイノセンスの爪先を食らった事に驚き眼を見開く。

そのまま地に倒れ込むとばかり思っていたロードは右腕を伸ばし、アレンの襟元を掴むと焼け爛れた顔を向け形容しがたい表情で彼を見た。


「僕らはさぁ人類最古の使徒、ノアの遺伝子を受け継ぐ『超人』なんだよねェ」




「お前等ヘボとは違うんだよぉ」


途端、ドッとアレンの左目に急激な痛みが走った。








――ッぐああぁあああぁあ!









「――…ッアレ…」


その悲鳴とも、絶叫とも言えぬ声にはっと弾かれたように今まで彼らの会話が耳を掠める程度にしか聞こえなかったは意識を戻した。

目の前ではロードが彼の左目を刺したと思われる杭の先端についた血を舐め、床に放り投げるとカランと無機質な音を立て転がる。

段々と組織などが戻りかけている顔に笑みを彩ると、段々と抑えきれなくなったのかロードが甲高い笑い声を上げた。


「プッ、アハハハ!キャハハハハハッ!」


左目を押さえ痛みを耐えるかのように口の端をキツク結び、手で庇うアレン。

そして離れた所では時計に手を打ち付けられたままのミランダがその尋常とは思えないロードの行動に恐れを成し、悲鳴を上げる。




その光景を見ていての胸の奥が、ドクン―…と脈打ち始める。

段々と大きくなる其れは己の感情に反応するかのように、まるで"内に込められた何かを呼び起こすかのように"

ギリッ、とそのわけのわからない感覚を抑える為に唇を噛み締め両腕で頭を抱え込む。

どうしてかはわからない、ただこの感情を表に出してはいけないと本能が告げるように激しい頭痛が襲いかかり。

思考が痛みと荒々しい醜いとも思えるこの沸き起こる何かに荒らされ正常に、動かない。



「僕はヘボい人間を殺すことなんて何とも思わない、ヘボヘボだらけの世界なんてだーいキライ♪お前らなんてみんな死んじまえばいいんだ」




それ以上言うな、それ以上この感覚を更に湧き上がらせるような。


俺を怒らせるような言葉を吐くな。






「神だってこの世界の終焉を望んでる、だから千年公と僕らに兵器を与えてくれたんだしぃ」








そのロードの言葉に、何かが吹っ切れた


世界の神が終焉を望んでいる?


人間が人間を殺すためにアクマという兵器がある?





人間ヲ殺ス事二、何モ思ワナイ?













視界は白に彩られていた

何も無い、空虚な無に染められた真っ白な色に



何時も見ていた闇の世界じゃなく今は白



誰も居ない、何も無い、色も無い世界

ただこの空間だけは酷く恐怖感を感じた




"白に染まるのが怖いのか?"


自分が無垢で、何かに染まることの無いこの白に




闇とは違い落とされた色を隠すことが出来ないこの白が  酷く怖かった



『――……ッ何なんだよ』




不意に紡がれた言葉は誰にも届くことが無く白さえ染めない




『―……嫌だッ、こんなのは嫌なんだ…!』





酷く、虚無という白が怖くて


頬を伝う冷たい何かが、"ナミダ"ということさえわからなかった















「 ―――ッうぁああああぁああぁあああ!! 」














突然、視界が元の場所に戻ったことさえも気がつかないままは両腕で頭を抱え叫んだ。

彼女の様子が急変した事に驚いたのはアレンやミランダだけでなく、ロードやアクマも驚きの色を浮かべ皆彼女へ視線を向ける。

は何かに怯えるように、そして何かを押さえ込むかのように頭を抱え込んだ両腕で顔までも隠しひたすら、声が枯れるのではないかと思う程悲痛な声を上げ続けた。

刹那バキンッ、と何かが割れるような音と共に彼女の右手首に巻かれていた鎖が拡散し、の背から巨大な漆黒の"翼"が広がる。

アレンは尋常ではない様子に驚きつつも、あのままではマテールの時のようにまた"彼女ではない何か"に変わってしまいそうな不安を覚え。

痛みを訴える身体を叱咤し立ち上がると同時にイノセンスを発動させる。


「――ッ!」


彼女の元に近付こうと駆け出した瞬間、行く手を阻むように三体のアクマが現れる。




こんな所で手こずっている暇は無いというのに…!




だがそんな思いさえ虚しく、繰り出された攻撃を全て真に受け壁に打ち付けられてしまいアレンは床に伏せあまりの威力に身体は限界を覚え初め、動けなくなる。

ミランダは攻撃を受けてしまったアレンと、が気にかかり本能が思うままに声を紡いでいた。


「アレンくん、ちゃん…!」


それでもの耳には彼女の声が届いていないのか、未だ頭を抱えたまま深く俯き膝を抱えたような格好で蹲っている。

の様子に気がとられていたロードだったが、ミランダの声に反応すると口元に笑みを浮かべ右手を天井を指すかの様に掲げた。

ロードが指差した先にあったのは、無数に漂う三角錐型のような蝋燭の群れ。



「お前もそろそろ解放してやるよぉ」



ミランダはそのロードの指差した先に在る蝋燭に、襲い繰るであろう衝撃に恐怖を成し瞳を強く瞑ったのと無数の攻撃が襲い掛かってきたのは同時だった。

しかし、何故か自分の身体には怪我も痛みもない。

恐る恐る開けた視界に映ったのは満身創痍な姿になりながらも、イノセンスの腕と自身の身体を犠牲にしてミランダを庇ったアレンの姿。

ミランダが自分を庇ったことと更に酷い怪我を負ったアレンの姿に驚き、彼の名を紡ぎかけた時アレンは彼女の手を打ち付けていた杭を引き抜く。

それと同時に解放されたミランダは駆け出し壁際まで逃げた後アレンの方を向いたが、彼は微動だにしない。


恐らく、杭を引き抜くだけでも精一杯だったのか


自然に流れ出る涙と彼が動かないことの不安に、震える声でミランダは口を開いた。


「アレンくん…死なないで……ッ」


ようやく反応を示したアレンの顔には、僅かながらにも彼女を安心させようとしたのか。

かすかな笑みがあった。



「だ、大丈夫…」



だが、それは逆効果な笑み。

不安にならざるを得ない、微笑み。

ミランダは何故かす――と心の奥の何かが落ちたように、一度手の震えが治まるとその手ぎゅっと握り締め。








「何だ メス?」


「何やってんだ〜?」






ミランダは流れる涙を止めようともせずに、己の危険まで知りながらもアレンを庇うように抱いていた。

そのような行動をするとは思ってもいなかったアクマは驚いていたが、彼女はまだ震える腕でその泣き顔に僅かながら自嘲気味の笑みを浮かべる。



「は…はは…ホント何やってんの私…」





「でも…」




彼女の言葉が紡がれた瞬間、時計から眩い光が溢れミランダと、ミランダが庇うアレンを取り巻く光の陣が浮かび上がった。

様子を見ていたロードは僅かながらに驚きの色を顔に表すが、背後に感じる妙な存在の方へ視線を向け息を呑む。

其処には脚に太く、重々しい鎖が巻きついたままだというのに顔を左手で覆いながら立ち上がる

そのか細く女性的な指の間から覗く瞳には酷く荒々しい眼光と感情が宿り、今まで見ていた彼女は全く異なる意思を感じる光が在る。

ゆっくりと、歩を進める度にジャラと鳴る鎖はもう彼女を止める事など出来ないに等しい。

そしてアクマに向けられた右手は、




普通の人間では在り得ない、エクソシストでも稀に見るかどうかさえもわからない






の右手と、不完全なまま発動されたイノセンスが一体に成りかけていた







言い変えるなら 








" イノセンスに寄生されかけていた "















                                     2006.11/4











……もう何も言うまい…(ぇえ
いや、嘘です嘘です。すんませ石投げないで…!

というかちゃっかり本日からアンケ設置しました!
九巻など読んでて、この連載ではまだまだ先なのですが展開どうしようかなーと思いまして。
まず先に分岐するところはエシ戦じゃないですか?江戸に向かう前の、
その時どうしようか悩んだ末に皆様に聞いてみようじゃないか*という考えに行き着いたわけです。
多分その所に進むまで募った結果により変わるかどうかはまだ定かじゃないですが。
傾向などは皆さんの意見参考にしていきたいと思っておりますので、どうぞお気軽に!



さて、何だかさんが凄いことになってしまった。
今後どうするか考えてはいるんですが、上手く繋げられるかな…!
というかホントここも長いなー、まだ巻き戻しの街は続きそうです。早くラビ出したい(お前は
つかミランダさん私的に好きなのですが…!