静かに明ける一夜を請う

























25. クローズ マイ ワールド
























深々と、外は先日から降り出した雪に彩られ真っ白に色づいた街中の静寂が包む、病院の一室。

白く無機質なシーツが敷かれたベッドの上に寝かされているはまだ目覚めない。

彼女が起きるのを待つ為に二人の少女は椅子の上に座り本を読み、窓の外を眺めていたりした。

しかし二人の瞳には紙面に綴られた文の内容や、窓の外に広がる雪景色など一切映ってなく。

ただ、本当に静かに眺めて居るだけだった。

彼女達の心情は如何なる物かわからない、しかしその室内の雰囲気が彼女達の心情を現しているようで。

暫くそのままの状態が続いた後、不意に視線を落としていたが本を閉じ窓の外を眺めていたへ視線を向け口を開く。



「……、やっぱ皆に話した方が良いと思うけど」



其の言葉に何の意味が含まれているか分かったは一瞬表情を曇らせ、小さく瞼を伏せる。

そしてまだ瞳を固く閉じ、目を覚まさないへと視線を向けるが直ぐに逸らしまた窓の外へ視線を向けた。





「――…隊長が起きたらにしようよ」





小さく紡がれた言葉は静寂に包まれている室内に響き、余韻を残したその言葉は酷く悲しく。

の言葉を聞いたは僅かに眉を顰めたが彼女から視線を外し再び本の紙面に視線を落とす。

綴られた本の内容は分からなくもないけど、どうしてか頭の中に入らない。

色々と、ありすぎたせいなのか。

窓を眺め続けるに悟られぬように表情を落とし息を吐いて、瞳を伏せた。


















「…これは奇怪な、」


光が余り入り込まないようカーテンが閉められた室内に、一人の老人が紡いだ言葉は静かに溶け込んだ。

彼の視線の先はアレンの左目に向けられていた。

アレンの左目は以前ロードと接触した際に酷い怪我を負わされ見えなくなっているが、今は殆ど元に戻りかけている。

未だ僅かに傷が残っていたが、既に血など流れておらず後数日で元に戻るだろうと判断された。


「『呪い』――だそうだな」


表情を一切変えることもせず老人が紡ぐ。

彼にそういわれたアレンは僅かに表情を曇らせたが左手を静かに左目、正確に言えば傷に手をそっと当て視線を伏せる。


「昔、アクマにした父から受けた傷です」

「アレン・ウォーカー"時の破壊者"と預言を受けた子供だね、我等はブックマンと呼ばれる相の者。理由あってエクソシストとなっている」


老人は壁際に寄りかかっている一人の青年へと一度視線を向け、再びアレンの方を向く。

そしてゆっくりと左手を差し出し、口を開いた。


「あちらの小僧の名はラビ、私の方に名は無い。ブックマンと呼んでくれ」


アレンは僅かに笑みを浮かべ、彼が差し出した手を握り返した。

その時急に部屋の扉が乱暴に開けられ、勢いの止まることが無かったドアは壁に激しい音を立てながらぶつかった。

室内に居た三人は何事かと視線を向けるが、其処には息を切らしたが室内の重い雰囲気に一瞬引いていたが意を決し口を開く。



「コムイ何処ッ?隊長目覚ましたから伝えに来たんだけど……」


「本当ですか?!」

「…でもまだ怪我万全じゃないらしくて」


そう言ったがベッドの上から立ち上がったアレンを待ちながらも、ブックマンの方へ視線を向け少々躊躇いがちに紡ぐ。


「ブックマンも、少し手伝ってくれない・・・?」

「私も少々話したい事があるから構わん」

「じじい、俺も行ってい?」

「…余り騒がなければな」


少々荒んだ視線を送ってくるブックマンにラビは苦笑を漏らしたが、彼は気にした様子も無くコムイを呼びに行ったとアレンの後を追い部屋を出る。

室内にはラビが一人だけ残っていた、彼は誰も居なくなった事を確認するとカーテンが僅かに開いた隙間から窓の外を眺め、眼帯で隠れてない左目を薄く細めた。



雪の舞う景色が、半年余り前のあの日と重なり何故か気が重くなる。



そしてあの日に初めて出会った少女が、今会うだろう目を覚まさなかった少女だと信じたくないと思う自分が心の奥に居た。







あの日の記憶の中では 彼女が纏う雰囲気は明るくて、








吐き所も無い、恐らく自分の中だけで燻ってる感情を少しでも和らげようと吐いた溜息は妙に室内へ余韻を残す。

静かに壁から背を離し、アレン達と合流したばかりの時まだ目を覚まさなかった少女の居る一室へ歩を進めた。


出来るなら、まだ明るくあって欲しいと願う自分も此処に。


















「―――……」


ベッドの端に腰掛けて、は一人自分の右手に視線を落としていた。

ノアの一族と名乗ったロードに言われた言葉が目覚めた時から頭の中に何度も繰り返され、今もまだ思考を掻き乱す。

あの時あった出来事は…いや、あの出来事が起こってる際の自分は本当に自分であったのだろうか。

ロードと接触している際の記憶や感覚、全てが朧気で何もかもが現実であると認められなった。



――…何故?


師匠の名が、出たからだろうか


――…どうして?





アレン、に 自分の事を知られたからだろうか





幸い自分が非現実的としか思えない、御伽噺のような世界の住人である事を話されてしまった際にリナリーは起きてなかった。

でも、勘が良く仲間思いでもあり、優しい彼女なら何時かきっと気付く筈だ。

それに、急にエクソシストへの道を歩むであろうミランダにも知られ。

この世界に来てから長い付き合いな方のアレンにも知られた。

自分達が此処の世界に来てからその事を他人に知られた事は余り無い、というよりも話さなかったから誰も自分達が"異世界"から来たなんてわからなかっただろう。

それでも師匠や、彼と仲の良かったクロス・マリアン。

そしてリナリーの兄であり科学班室長の座を持つ、コムイ。

彼らに話したのは特に何も問題は無いと思ってた、そうしなければ自分達がこの世界で生きる為の活路は開けなかっただろうし。

何よりも、まだ成人もしてない女の自分を戦場という場に行かせてくれる為に理由にするのはそれしかなかった。

ただ、自分達の経緯を利用して進んできた道。

を守れる、自分が血に汚れても誰かが待ってくれる場所を作る為に進んできた、荒くて一本の綱を渡るような危険極まりない日々。

途中、何度も何度も本当に自分は正しいのだろうかと悩んで、悔やんで苦悩の日々を送ったこともあった。

それでも浅はかな考えしか持てない自分はそうする事しか出来なくて、今日のような真っ白い雪の降る世界の中佇んだ日があった。



白に、染まりたい

何もかも無に返して、自分という存在も無くして




二人だけでも、帰させて





は静かに両足を抱え込み、ベッドの上で蹲る。

こうするだけで感じられる自分の体温でさえ酷く煩わしくて。

いっその事、もう何も感じられなくなる感覚を持ってみたいと思う自分が心の何処かに住んでる。

何でこんなにも自分は悲観的で、心の闇を探るような感情しか持てなくなってしまったのだろう。

深々と降り積もる雪だけの音が聞こえてくるような、一室の中でそのまま蹲っていれば扉の開く音と数人の足音が聞こえた。



「隊長?」



恐らく、声からしてだろう。

それでも今はこんな重くて、普段見せたことのないような感情が口を開けば出てきそうな心境のままで顔を上げたくなかった。

だから、




「…御免、外行ってくる」



そのままベッドの上から立ち上がり皆の横を過ぎる様に、俯いたまま病室を出た。

アレンや達が自分の名を紡いだのが聞こえたけれど、きっと皆の方に振り返ればこの嫌な感情が表に出てしまう。

だから、逃げる事しか出来ない自分が酷く愚かで醜くて。

肌を刺す寒さの痛みが、胸の奥にまで突き刺さって来る様で無性に泣きたくなる感情を抑えるようにきつく手を握り締めた。





「隊長……どうしたんだろ」


ぽつりと紡がれたの言葉を返せる者は居ない。

寧ろそこに居た全員が彼女の言葉と同じ考えで居た、どうしてあれ程辛そうな表情を湛えていたのだろうかと。

皆に呼ばれリナリーの部屋に居たコムイはの元へと来たが、彼女の様子に疑問を覚え密かに眉を顰めた。

暫くその状態が続いていたが、部屋の一番端に居たラビが静かに口を開く。



「………泣いてたさ、




「…え?」


「実際に涙流してたワケじゃねぇけど、背中がそう見えた」


そう言った彼は僅かに唸りつつ一度窓の外を眺めてから、身を翻す。


「ラビ、何処に行くんだい?」

「いや…あのままじゃ寒いっしょ?それに話してぇ事もあるし」

「……僕も行きます」


ラビの後を追う様にから受け取った黒いコートを片手に、アレンも自分の団服を纏い彼の傍に寄る。

その際にラビは一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに身を翻し二人共室内から出て行った。

少しの間静寂がこの場に漂うが、の二人はお互いに視線を合わし軽く頷き合ってコムイ達の方を向く。



「コムイさん、ブックマン…少し私と、隊長に関する事で話があるの」



話を切り出したの表情は酷く真剣さと寂しさ、同時に何故か悲しさまで混じったような感覚を漂わせている。

急変した彼女達の様子に驚くコムイとブックマンだったが、恐らくその話の内容は公に語れない。

アレンやラビの居ない間に聞いた方が良いだろうと思案して、皆リナリーの病室に移動する事に決めた。

そしてリナリーが未だ眠っている室内に入り、探索部隊の人を入り口辺りに警護につけさせて皆が部屋に入った途端、が静かに口を開いた。




















「多分、ウチ等はこの世界で長く生きていられない」

















唐突過ぎる話だった




















                                    2006.11/12











展開も唐突過ぎました(どーん

いやあの、この設定は大分前から考えてたことなんですよ。
普通の異世界トリップは、大体ずっと居られるか途中で帰れたり、最後は元の世界に戻ったり。
その設定も普通に大好きなんですが、当サイトのもそうしちゃ面白みがないかなぁと思ったりもしてるんですが…ね…(何かチキンだコイツ
いっつもびくびくしながらの設定なんですが毎回!どうせならもう新しいのを作る試みで行ってみようかなと(笑
最後のさんが話し出した話の詳しい内容は次回話で、

そしてちょっとやってみたかった展開が雪の降る街中でラビとアレンとお話。
シリアスぶっちぎりで。あ、でも少々温かさも取り入れたい…!
人数増えると書き難くなってくることをこの話で知りました、展開急すぎたり描写少なくてすみませ…;


ラビの一人思想の時の【あの日】とは、この連載の四説でコムイさんが言っていた『噂のエクソシスト』とリンクしてます。
後程その話は本編で書くといってましたが、繋げるの難しいと思い番外編書こうかなと!