広い世界に、愚かな自分の居場所は無いんだと思い続け生きて来た
26. ユビサキから世界を
唯立ち尽くす自分の身体に降りかかるのは、現の幻想にも似た儚い雪。
雪は綺麗で凄く好きだった。
自分にはない綺麗な色と、何もかもを慈しむような触れることで溶けてしまう温かさを持った小さな存在。
両手にも掬えない程僅かな量にも含まれる、汚い"モノ"も綺麗な物も全て埋め尽くしてしまうその温かさが自分を埋めてくれる気がしてた。
それでも今はどうしてかその温かさも感じられない。
綺麗とは思えるのに、両手を広げて天を仰ぎながら灰色空に右手を精一杯伸ばしても空にも雪にも届かない。
どうして?
夢、ならば良かったと今まで幾ら思っただろう。
普通に、本当に世界を越えるなんて経験をしなければ今頃は高校生になってとと、三人で笑い合ってて。
喧嘩もして、時には嬉しくて騒いだり悲しくて泣いたりして。
ただの人間として一人のヒトとして、生きてた筈なのに。
それでも今は違う場所でアクマという悲しい者達を壊して、エクソシストという道を辿って生きている。
何が正しいのか悪いのかさえもわからない。
愛しい者が弱い心を千年伯爵に委ねてしまい、その者を愛しさ故に殺してしまうアクマは悪いのだろうか。
彼らの魂を救済する為に、破壊をし続けるエクソシストという肩書きの聖職者は正しいのだろうか。
世界の理や在るべき姿など一切わからないちっぽけな存在の自分には、何が正義で何が悪で何が救済なのかもわからないままだった。
今思えば、ただ自分は目の前に見えた道を歩んできていただけなのかもしれない。
だから、ロードの言う言葉もあの時は違うと信じたくて反発したけれど今考えてみれば、当たっているのかもしれない。
誰かと相容れる事を此の世界に来てからしなくなった。
愛、というのは元から知らなかったし、誰かを好くというのも良くわからない。
" 愛は哀でありアイでもある "
何時だったか、本で読んだことがあった言葉が急に脳裏に浮かぶ。
その言葉の意味がどういった物なのか思案すればするほど、様々な感情が沸き起こってくるようで余りこの言葉は好かなかった。
でも今はその言葉が何故か酷く心の奥に突き刺さるようで酷く、痛くて。
深々と降り積もる雪の静けさに恐れ、自分の存在を埋めてくれるよう願った思いも叶いはしなかった。
は知らない内に空へ伸ばしていた右手を下ろしていて、瞳も虚ろなまま地に下ろし静かに瞼を閉じる。
自分の中に渦巻く感情が何なのかはっきりとしない胸中が煩わしくて。
白い世界しか広がらないこの地に佇む事しか出来なかった。
真っ白な雪の色だけが視界に入り凍えるような外気が刺す外に彼女は居た。
アレンは彼女を見つけるなり片手に持っていたコートを強く握り、一度止めていた歩を進めだそうとしたが誰かに肩を掴まれその先を行く事を拒まれる。
誰だろうか、と少しの焦燥と驚きを織り交ぜた表情のまま後ろを振り向けば視界に入ったのはラビ。
何故か酷く真剣みを帯びた表情を湛えながら、外に佇むの背を見てから再びアレンへ視線を戻し静かに口を開いた。
「――…直ぐ行って、何か言えるのかアンタは?」
「え?」
言っている言葉の意味が良くわからなかった。
何の事を指しているのか、そして何を言うというのか。
ラビは密かに瞳を薄く細め彼を一瞥してから視線を滑らせ、未だ雪の降り続く外に佇むを見る。
嘗て見た彼女の背は小さくても強さを、生きる望みを持った人間の綺麗さを湛えていたというのに今は感じられない。
それどころか今見る限りの彼女の背からは、世界から外れることを望んでいるような。
世界の"何か"から外されてしまったような子供の背に見える
汚れてしまっている此の世界で、迷子となる人間は多い。
戦争に介入して自らも其の命を差し出すような愚かな行為をすればいいのか。
神に哀願してただ助けを求め、請うように惨めに人間らしく生きればいいのか。
一体、何が正しいのかわからなくて道端で止まってしまうような。
そんな淋しくて、悲しくて静かな背に見える。
彼女の今までに何があったのか一緒に居たわけじゃないから知らなくて、自分から言える事は恐らく無い。
目の前に居る少年も、どれくらい彼女と一緒に居たのかさえわからない。
何も知らない自分だけが此の場から除外されてしまったようで、僅かな悲しさと悔しさの入り混じる感情を思わず表に出してしまった。
彼に当たったって何も良いコトがあるわけじゃないのは、わかってる。
それほど子供に育った覚えは無い、それに自分は"傍観者"として荒れた戦争という名を持つ世界の一つの道を歩んで来た。
だからと言って良いのかわからなかったけど、少しは大人になったつもりだった。
それでも所詮"つもりはつもり"なのだろう
勢いで掴んでしまった自分の手を静かに振り払い、アレンはゆっくりと強くも今にも泣き出しそうな表情を湛えながらもラビを見返す。
自分から見ればまだ小さな少年でもある彼がそんな表情を湛えるなんて思ってもいなかったため、ラビは思わず息を軽く呑む。
「――…確かにまだ僕は彼女の事を良く知りません、それでも僕は行かないと」
そう言った彼はラビが言葉を返す前に身体を翻し雪景色の中に歩を進め出す。
彼が去った後の此の場所は何故か酷く静寂が満ちて。
ラビは静かに彼に払われてしまった手が宙を彷徨ったままなのに気がつき、ゆっくりと下ろそうとして突然其の手があの日の自分の手と重なって見えた。
今日のような雪景色の中で、初めて出会った少女の腕を勢いで掴んでしまって後悔していたあの手と。
掴んでしまったことへの後悔?……違う、
届かないことを知っているのに、焦がれることの後悔だ
何故か初めて会ったときも、そして今も手を伸ばせば届きそうな距離に居るのに届く気がしない遠すぎる彼女の背に。
酷く悲しくて淋しそうに見える其の背を庇いたくても、近づけない彼女に。
言い語れないくらい織り交ざりすぎた感情を紛らわすように、見つめたままの右手を額に当てて近くの壁に背を預け空を仰ぐように顔を上げた。
こうすれば零れだしそうな何かを抑えることが出来るような気がしたから。
それでも、心の内に生まれた此の重くて消える事の無いと思える思いを吐き出したくて小さく声を零した。
「―――……届く、んかな…」
「、」
静かに、真っ白い世界に溶け込んでないのに何故か消え入りそうな程小さかった彼女の背に声をかければ僅かに肩をピクリと震わせる。
それでもは振り向こうともせずに、向こう側を眺めたままの格好で立ち尽くしていた。
アレンはゆっくりと誰も踏み締めてない雪の地に己の足跡を残しながら近付けば、突然聞こえた彼女の声に。
いや、静かに紡がれたはずの声がはっきりと自分の耳に届き戸惑いを隠せずに立ち止まってしまった。
「……どうして居るの」
彼女の声は何故か酷く悲しくて、
小さくてまるで泣きたいのを堪えるような子供のように思えた
それはきっと、言う事の出来ない彼女の抱えてるものの一つで
2006.11/17
何だか全然物語り進まないで終わってしまった、あかん!
それでもこれ以上続けてしまうとちょっとあれかなーとも思い、短いけどあえて切りました。
この街の中での話はまだ続きます、次はアレンとの話がメイン!
さんが言ってたことも書けたらば、そして今話はちょっとラビVSアレンを意識してみましたが玉砕ですね!(…
しかし今話が初めて連載中で夢らしいような気がしないでもない…。複雑です、
" 愛は哀でありアイでもある "
という言葉、自分で何となく考えた言葉なのです。
この言葉をモットーに此の連載夢を書いているようなものですんで…、どう捉えてくださっても構いません!
言葉の捉え方というのは個人個人で違うところもありますから
ラビが可愛そうな立場ですが、後々は仲良くというかほのぼのさせたいと目論み中です…!