どれぐらい走っただろうか




何度も曲がりくねり、古びた階段を登っていた先に見えた扉






その扉を開けたら一人の少女が金色に輝く鐘の前に佇んでた




















3. An opening of a song
























「…貴女は?」


慣れない階段ばかりの通路を駆け上って来たため、肩で荒く息をしながらアレンは一人佇む少女に声をかける。

ここ数年、使われた雰囲気を持たない塔だとは登ってくる際思っていたがまさか人が居るとは思っていなかった。

それに居るのも少女たった一人だ、全体的に薄く今にも消えかけそうな雰囲気を湛えた少女はゆっくりとアレンの居る方へ視線を向け、柔らかい笑みを湛え。



"やっと見つけてくれた"



そう、紡いだ。

一瞬何のことだかわからないアレンは、発動させていたイノセンスを一度元の腕に戻し瞬きをする。

左目を通してもアクマの反応は一切見られないこの少女は一体何なのだろう。

暫くそのままの状態で止まっていただろうか、不意に少女がアレンの方へ向けていた視線を外し塔の上を見上げた。


"此処で、私は待っていたの"

「――…僕を、ですか?」

"ううん。正確に言えば、あなたのような人を"


少女は静かに自分の右手を上げて、人差し指でアレンの左手を指差した。

其処に在るのはイノセンス、指差された左手を一度見て、再び視線を少女に戻す。


「もしかして、エクソシストを待っていたんですか?」


静かに問いかけたアレンの言葉に応える様に少女は小さく、だがしっかりと頷き返す。

そしてゆっくりと歩み出した少女は鐘の傍に寄りそっと手を当て鐘の側面を撫でる。

其の時の少女の表情は酷く慈しみに溢れ、まるで自分の子供を大切に扱うような仕草。

彼女は鐘に身を預けるように、ゆっくりと額を当てながら紡いだ。


"此の子は、とても不思議な力を持っていた。もしかして、あなたたちの言うイノセンスかもしれないと思ったから"


その一言でアレンはふとある考えに行き着く。

確かに今礼拝堂内でアクマと交戦中のは言っていた、『鐘が鳴ると本当の夜が始まり、アクマが現れる』と。

しかし、一つだけ疑問に思う事がある。

何故、エクソシストやイノセンスの事を彼女が知っているのだろう。

とてもそれらに関して情報も得られなさそうな平凡過ぎる此の街の中の、更に人が来ない此の場に居る彼女が。


「貴女は、この鐘の音がアクマというものを呼んでいるという可能性は信じて…」

"信じてる、というよりはわかってたの。でも私じゃもう何も出来ないから、だから誰かが来てくれるのを待ってた"

「どれぐらい待っていたんですか…?」

"忘れちゃった、もう軽く数年は経ってるんじゃないかな"

「す、数年も…?!」

"見て分かるとおり、私もう死んでるから"


一瞬、耳を疑った。

彼女は確かに自分の口で死でいる、と言った。柔らかな笑みを湛えたままの表情で。

アレンは驚きに目を見開かせ一度瞬きをして、そして少女に向かい問いかける。


「どうして、もう死んでいると言い切れるんです」


少女はその急な問い掛けに柔らかな笑みを湛えていた表情を一瞬曇らせて、僅かに見開いた瞳を静かに閉じて困った様に眉を顰め、俯いた。


"時間がわからない、生きている実感もないし…何よりも身体が無いから。魂だけの存在なの、私"


淡々と紡ぐ少女の表情は酷く笑みを湛えようとしているのに、無理して悲の色を隠そうとしている為に余計酷く歪んでて。

アレンはその辛そうな表情を湛える少女の事を見ていて、思った。

此の鐘しかない場所に、それに原因はわかっているのにどうにもできないのは酷く辛い事だろう。

誰も居ない場所にずっと居て、誰かが来てくれるまで待ち続けるのは酷なことだろうと。

少女と同じ様に鐘の近くまで歩み寄り、そっとその冷たくも綺麗な鐘の側面に手を当てながらアレンは穏やかな笑みを浮かべた。


「大丈夫ですよ、僕が預かりますから」


そのアレンの笑みにか、それともその言葉に驚いたのか。

少女は僅かに表情を驚きの色へと変えたが、ゆっくりと小さく笑みを浮かべた。

今まで浮かべていた笑みとは違う、本当に晴れ渡った笑みを。




                  "――…ありがとう、"




少女がそう紡いだ瞬間、彼女の身体から僅かな光が零れたかと思えばふっと消え去り。

同時に鐘も細かい光の粒子と成った其れは、アレンの手に集うよう漂い一つの重さが手の中に生まれた、小さく瞬きながら力の存在を感じる一つのイノセンス。

此の街、正確に言えばこの教会に起こっていた異変はもう起きないだろうと手の中に確かにあるイノセンスを僅かに握り締めた。












「―――これで最後ッ!」


ガァンッ、と激しい音を立てて床諸共アクマを切り裂いた。

少し荒く息を吐きながら、メリルシアを支えにするかのように地に突き立ててそれに寄り掛かりは辺りを見渡す。

しかし、どうして急にあれ程大量に湧いて来るアクマが急にその発生を途絶えさせたのだろうか。

それによく見ればステンドグラスから小さく朝日の様な物が零れかけている。

この時間帯では鐘が鳴り止まずにまだ夜が続く筈だ。

僅かに汗が浮かんできた額を手で拭い、メリルシアを元の形に戻しながら再び回りに視線を向けていたら教会の入り口の方に気配を感じは振り向いた。


、それにじゃないか」

「隊長ー何で急にアクマ出なくなったの?」

「もしかして、鐘が鳴り止んだのも関係あるのかな」


黒い髪を一つに結って、とは少々形の違う黒いコートを纏いながら左は黒、右は紅色を宿した瞳で礼拝堂内を見渡す

そして医者や科学者が纏うような形の白衣を纏った茶髪の髪をピンで分けて留めているが、髪と同じ茶色の瞳でを見ながらゆっくりと歩んで来た。

二人は何時も教会近くにある民家の影に潜み、教会内からアクマが街の中へ出てしまわないように保険としての待機組。

しかし大抵は戦えるのはのみだったがが全て沈めてしまっているため、が暇だと嘆いていたが。

その隣で苦笑を零すが居る、それが何時もの事だった。

は乱れた髪を手櫛で直しながら、ある一人の少年の事を思い出し「ああ、」と声を漏らすと二人が顔をへ向けた。


「あの少年が片付けてくれたのかも」

「あ、もしかして…」



「それって、僕の事ですか?」



の言った言葉の意味がわかったのか、が昼間に出会った少年の姿を思い出し言おうとした瞬間に礼拝堂の中に声が響く。

皆が一斉に其方の方へ振り返れば、白髪の髪を揺らしながら歩んで来る一人の少年。

彼の手にはこの薄暗い礼拝堂内では目立つ、一つの光に包まれたイノセンス。


「あー…やっぱイノセンスの仕業だったか」

「わかってたの隊長?」

「ほら、師匠言ってたじゃないか"奇怪のある場所を探せ"って」

「あぁ、確かに言ってたかもね」

「だからずっと窺ってたんだけどな、どうも一人でやるには困難だったワケでアレンに手を貸して貰ったのさ」


だよな、とが目配せをしつつアレンの方を向けばこくりと彼は頷き返した。

アレンはその後の近くに居る少女が二人居る事に気がつき、その二人を見つつ一瞬声を上げそうになる。

の右隣に居た、茶髪の少女は昼間のあの店で会った少女だったのだ。

彼の視線に気がついたのか、は其方の方に視線を向けたためアレンと視線が合い「あ、」と小さく声と同時に苦笑を零した。


「あの時はごめんね、変な事ばっかり言って。奇怪の事を教えて、誰も教会へ近づけさせたくないっていう隊長の考えだったの」

「でもあれじゃ興味本位で近付く人が多いと思いますよ」

「ああ、だから俺が教会内で待ち伏せしてて…っつーと言い方悪いけど来た人皆追い返してたみたいな…」

「だからもうちょっと捻った方法でやればよかったじゃん」

「手っ取り早く考え付いたのそれしかないんだよ…」


ぶすーと少々口を尖らせながら言うを見ての二人は笑い出し、アレンも此の場の雰囲気につられ笑みを零した。

複雑な表情を湛えたままのはアレンの手の中にある物を見つけ、彼に向かって問いかける。


「それって、イノセンスだよね。此の後どうするのさ?」

「一応、エクソシストの本部を目指していたので其処に持って行こうかなと…」

「ね、隊長」


アレンの言葉を聞き、のコートの裾を掴みつつ何か意を込めた視線を向けてきた。

この時の場合は大抵あれだろう。

彼の行く場所についていかないか、とだけでなくも思っているらしく彼女も此方へ視線を向けている。

は少し視線を外し、僅かに考えてから小さく息を吐き二人に向かって頷き返してからアレンの方へ視線を向けた。


「アレン、そのエクソシストの本部行くのについて行って良いかな?勿論も居るけど」

「僕は構いませんよ、寧ろ貴女達は頼りになりそうですから」

「そう言ってくれると有り難いかな、うちは

「私はだよ」

「僕はアレン、アレン・ウォーカーです」


が自身の名を名乗りアレンと握手をし、お互いに自己紹介を終えて一旦此の教会内から出ようとした時。



「……?」



アレンが礼拝堂内にあるステンドグラスを見上げたままが立ち尽くしていたのに気がつき、進め始めていた歩を止めた。

彼の声に気がついたのかも身体を後ろへ向けて、彼女の居る方へ視線を向ける。

薄く瞳を細めて、ステンドグラスへと視線を向けていたは一度首を横に振り苦笑を漏らして三人の方を向き「何でもないさ」と呟き歩み出した。

コツコツとブーツの音を立てて教会の外から出て行った彼女の背を視線だけで追っていたが不意に呟く。


「まただ、絶対また隊長何か考えてるよあれは」

「…またってのは…?」

「隊長はね、時々何も言ってくれないの。何か考えてる筈なのにそれだけに関しては口を開こうとしなくて」


がそこまで言葉を紡ぎ、少し瞼を伏せたまま僅かに顔を俯かせて、





「時々隊長が、何時か私とが知らないうちにどこかへ行ってしまいそうで怖いの」






小さく、声を零した













                                  2006.9/16







おああっ、やっとオリジナル話終わらせられました…!
兎に角も原作沿いに入れたことで嬉しいですが、この後どこから始めようか悩んでます。うーん。
(そしてちゃっかりイノセンス一個ゲットしちゃったというね…うん、まぁ良いんだ/待て
ジャンの所か黒の教団の所か、どちらかが有力候補ですね。
千年伯爵も書きたいですし…伯爵何か面白いので(ぇえ
しかしそれですと伯爵のハートマークは如何しようかと…あんま記号使いたくないもので。
まぁ結局のところどっちになるかは不明、早くラビとか神田とかティキ出したいな(先は長い!