静かに閉じた双眸には、霞んだ夜しか映らなかった
























32. 届かないという彩色の調


























ハートのイノセンスを持つ可能性が高く見られる、元帥達を手助けする為に各地に散るエクソシスト達は各々、過去に強く関わりのある元帥の元へと集まる事になった。

自分達はアレンの師匠であったクロス・マリアンを探し出し、護衛する事を任に命ぜられる。

その際にふと、達の師匠という立場である・オビルニアンの話も誰かが小さく零したのだが、




「彼は、あてにならないよ」




酷く、暗さも籠もった。同時に何かを言い渋るかのような声色でコムイが否定した為に、彼の所へエクソシストを送る事は無しとされた。

何故そう言い切れるのだろうかとは一度皆に悟られない様に密かに眉を顰めたのだが、直に平静を装う。

確かに何年間も連絡さえつかない、消息さえも掴めない彼を探し出すにはクロス元帥のゴーレム、ティムキャンピーのように。

何か彼の居場所を特定できるような物があれば探し出しやすいのだろうが、生憎達にもその術が無かったし知らなかった。

当ても無く探し続けるのは無駄な労力や時間を消費しかねない。

だから、元帥の事は後回しにしようというのがコムイの下した判断。

そういう事なら仕方が無いと、は完全に腑に落ちた訳ではなかったが一人別案を出したとしても。

唯でさえ少ない戦力であるエクソシストを欠かす事は出来ないのだと、自らも理解していたから口を噤んだのはまだ新しい記憶。



















「さて、」



ガタン、と揺れる汽車の音を切り出す為の切欠としたようにブックマンが手元に持っていた地図を広げる音がその場に響いた。

話を始める為に口から零れた彼の言葉に反応し、今まで各々の行動をしていたアレン達はブックマンの方へ視線を滑らせる。

一番窓際で相変わらず外の光景を黙って眺めていたも、ゆっくりと何処か覇気の無い表情を双眸に宿したまま、顔を向けた。

その雰囲気にブックマンは一瞬眉を顰め、「嬢、顔色が悪いが?」と幾分か柔らかい音を含ませた声で言葉をかけたが、


「…………」


は少しの間双眸を伏せて、そのまま静かに首を左右に軽く振り「…大丈夫、」と些か掠れ気味の声で続きの言葉を呟く。

彼女の様子は誰から見ても何時もとは違うのは一目でわかる程で、大丈夫だと言っても今までそんな様子を見せていなかった。

それに、ノアの一族と接触した後から異変が多く見られていた為に心配ならざるを得なかったが、がそう言ったのでどうしようもない。

ただ単に、今彼女が素直に皆の意見を受け入れるかどうかさえも定かではなかったのも理由に挙げられるが。

ブックマンは表情も変えず、軽く承諾の意を表すように頷き視線をこの場の皆を見渡せるように滑らせる。

汽車内に居たのはアレン、ラビ、リナリー、ブックマン、そしてのエクソシスト五名。

コムイ達とはこの汽車に乗り込む際駅のホームにて別れた。

その時、別れ際にの二人が何か訴えかけるような視線を、アレン達に気付かれないように投げ掛けてきたのはわかっていた。


この場では、いや…





私達以外の誰かが居る場では、話せない事を訴えるような視線





も彼女達に直接言葉で返事を返せるわけもなく、ただ静かに身体を翻し右手が二人に見えるよう、挙げた。

返す言葉も見つからず、どういった言葉を返せば良いのかわからずに、逃げるように。

次会ったら己の内に蟠る醜い、冷たい感情を露わにしないよう、言葉を交わしたいと思う。

何時までも何かから逃げるような惨めな事をするまでなら、自分は生きたくない。

今はまだ達成できてない、辿り着いてさえもいない"目標"があるから、縋りながらでもないが生きてはいる。

何時まで自らの時間が在るか定かではない、もしかしたら明日。いや今日にでも自分は居なくなるかもしれない。

不確定な未来を想定し、予測し恐怖し嘆く。

それが人間という感情持ちし生き物の性なのかもしれない。

ゆっくりと、また最近の癖のように胸中の奥深くに沈み込んでいた溜息を皆に悟られない様に、でも強く吐いた。


吐き出したくて、吐いた。久しぶりに自分の心境に素直になり吐き出した何かなのに、直後自分の血の気がさっと引いていく感覚が身体中を巡る。







他人の事さえ考えずに、己の"影"を晒してしまった事の罪悪感







微かに眉を顰めて、もう取り返しのつかない己のたった一つの行為に酷く嫌悪感を覚え、僅かに視線だけを皆へと向けた。

幸いに、皆はアレンの師匠であるクロス・マリアンの話題に耳を傾けており、自分では大きく聞こえた程の溜息は誰も聞いていない様。

僅かな安堵感が込みあがり、首を軽く振り被り視線を窓の外へと向けようとした時だった。

不意にアレンとリナリーの視線が交わったのが視界の端に映ったが、どういった事かリナリーは直に彼の視線から逃げるように目を逸らしたのだ。

今までそんな様子など見られない、同時に彼らの間で剣呑な雰囲気など一切漂わせていなかった筈。

しかし、今は誰が見ても明らかな反応。

その様子を眺めていたのが不運だったのか、アレンの視線から逃れるように滑らせたリナリーの双眸との双眸が、かち合った。



まさか視線が合うとは二人共思っていなかったのだろうか、彼女もも、互いに一瞬言葉を詰まらせるように口を結ぶ。

だがリナリーはアレンの時のようにすぐに逸らすことをせず、静かに、見ていたにしかわからない程に密かに眉を顰め、双眸を伏せた。













漆黒色に彩られた、アジア系統の壮麗さと甘美さを含んだ何時もは優しげで、強い意志も籠もる彼女の瞳には、

















                                                    2007.2/9










今回は短め、これ以上続けると何だかだらだらとなってしまいそうだったので…!
し、しかし以前の更新から大分遅くて申し訳ない…
一応は展開とか考えたんですが、上手く文にできなかったり色々あったりしまして、
生きてはいるので安心してください(笑


前話で、リナリーと喧嘩どうのこうの言ってましたがどうしよう。
上手く書けないかもしれないので、このまま喧嘩なるかクロウリー編に突っ込むかは定かじゃないです
恐らく後者が候補かなぁ、と。
にしても文体変わってしまったような…大分書いていなかったせいでしょうかね?