刻々と何かが薄れ逝く、






















34. Our Solemn Hour



























あの後、暫く泣いているリナリーにどう対応すれば良いのかわからなく、ただ立ち尽くしていた。

誰かに優しくとか、慰める、宥める行動や気を寄せる事も。

他人とどう接すればいいのか僅かにしか知らなかったは、戸惑うように眉を微かに顰めながらもリナリーの伸ばしてくる腕に受け応える。

自分の身体に回る彼女の腕は心許ないと思ってしまうほど、細く。

此れが女性の腕なのか、と同姓である自らでもふと脳裏にそんな感覚が酷くこびりつくように、響いた。

見た限りとかでは、わからない差が確かにあった。

リナリーの腕は同じエクソシストというだけあり格段に細いというわけでもなかったが、雰囲気だろうか。

薄く、感じた。微かに心に浮かび溢れた涙で滲んだ視界で、視覚で思考で捉えたからだろうか。

普通、という物を知らないせいもあるだろう。と、密かに己の無知さを今更嘆き息を小さく吐きながらリナリーの肩を軽く叩く。

そうすれば泣き腫らした双眸を上げ、リナリーは小さく首を傾けの顔を窺った。

は何時もの様な静かな、平静を湛えた表情のまま彼女の肩に乗せていた手を上げリナリーの頭を微かに撫で、ゆっくりと口を開く。








「…此処は冷える、汽車も出る頃だから行こう」








それは先ほどまで含まれていた暗さ、重さ悲しさなど一切感じさせない平坦な声域。

表情も此の今佇んでいるホームの外気に似ているほど。いや、同じくらいの無機質さしか湛えておらず。

リナリーは一瞬、戸惑う。彼女は、確実に何か変わってきているのではないか、と。

教団にて初めて出会った頃は親友であるあの二人の少女も居た事から、明るい一面も微かに見れたのは当たり前かもしれない。

しかし、それから後はどうだろう。

マテールの任務の後は、どこか何かを皆に隠そうと苦笑という名の表情を貼り付けて。

共に行った任務の際の後には、その悲しい苦笑さえも余り見せない冷えた空気のような存在の雰囲気を、綺麗な薄紫色の双眸に湛え。

そして、今、は





「―………?」




静寂に掻き消された声は、空しくも彼女の思考まで届かなかった



























「アレンが居ない?」


怪訝そうな表情を浮かべ、は考える事に耽け始めたのか人差し指で頬を掻きながら小さく唸る。

リナリーも大分落ち着いたのか泣いてはいなかったが、そう直ぐに調子を取り戻せるわけではない。

それにアレンが居ないことに不安を覚えているせいか纏う雰囲気は暗いままだ。

ブックマンやラビがそれを聞き一旦汽車内を探したらしい、しかし同じ教団服を一つも見かけることはできなかった。



「…駅で迷っているのだろうか?」

「ガキでもあるまいし」



小さく零したブックマンの声に、反応を返したのはラビだったが余りの言い草にを除いた二人に鋭い視線を向けられる。

まさかそんな視線を向けられるとは思っていなかったのか、此の場に居ないアレンを小ばかにしていた笑みが、引きつったモノに一変した。



「仕方ない、俺が探しに行くよ」



意外にも声を上げたのはそれまで思案に耽けていた

彼女は教団から支給されていた団服ではない漆黒のコートの袖に隠された色白い右手を挙げ、皆の気を引くかのように動かす。

今まで鈍色に瞬く鎖に拘束されていたその細く、病的に白いとも思える手首にイノセンスの核が皮膚を透かして存在を知らしめる。

何にも隠されていない其の手が、余りにも頼り無く見えたのは何故だろうか。

一人、ラビは誰にも気付かれないよう密かに眉を顰めたが直ぐに何時も浮かべる表情を浮かべ、身を乗り出す。



「俺も行く、どうせ行かなかったら行かなかったでジジイに唆されるだろうしよ」

「ほう、よく分かってるじゃないか小僧ごときめが」





「俺だってブックマンの端くれさー、何時か舐めたこと後悔させっからな!」





行くぞ、と仮にも師であるブックマンに言い放った勢いが薄れる前にラビはの腕を取り汽車の最後尾に向かう。

途中勢いよく引っ張られたままの格好だった故にが擦れ違う人とぶつかりそうになっていたが、気がつかない振りをして突き進む。

酷く、焦燥していた。

どういう理由でなのかはまだ自分の中でも整理や検討が付いていない為、言葉に表すことができない。

アレンが居ないことも一つに入るのだろう。

しかし、それだけでこんな苛々と募る感情が生まれる筈はない。

咄嗟に掴んで触れたの右腕は、今まで見てきて触れてきたどの人間のモノよりも驚く程何かが足りない。

存在感とか、腕を構成する皮膚などの質感とかそんなんじゃないと様々と思考をめぐらせる。

イノセンスの存在は関係ない。

イノセンスは選ばれた者にしか与えられない特別な物質であるから、無くて当たり前な物とも捉えることができるからだ。

それじゃあ一体何なんだ、と。

段々と燻り募る此のわけのわからない感情の赴くまま脚を進めていたら、いつの間にか汽車の最後尾である扉の前に着いていた。

其処でようやくの腕から自らの手を離せば、不思議な空虚感が手を伝い脳裏に一つの感情を沸き起こらせる。











さびしい、と











「……ラビ、」


突然思考を突くかのように静かなの声が聴覚に届く。

その重さも微かな怒りさえも混じった声音を捉え、視界に彼女を確認した時己の無意識に起こしていた行動に驚き、目を見開いた。

離して原因不明な寂しさを紛らわそうとしていたのか、それまで彼女の腕を引いていた右手はの肩を引き。

空いていた左手はの、深く深く沈み込んだ海のような藍さを湛えた髪を梳く様に、首元に添えられていた。

はっと弾かれるように両手を彼女という存在から離した後もまた、あの感覚が襲うが今度は押し込めることが出来数歩僅かに下がる。

は咎める意も見せずにただ、彼の思考を探るかのように首を傾けて双眸を軽く薄める。

そしてラビへ向けていた視線を僅かに逸らした後、薄く唇を開いた。




「何、焦ってるかわからないけど。 …大丈夫か?」



「どう、い…う意味さ」

「そのまんま。 理由がわからないのに適当にこじつけた心配されても困るだろ?」




全体を纏めての、心配だよと零した彼女の表情は薄暗い汽車内では正確に捉えることはできない。

だが例え明るい場所でも正確に、全てを把握する事は困難に近いだろう。

それが彼女である故に更に世界の裏側を追うよりも、何より手に負えない物だと薄々心の奥底に眠る自己が認識していた。



「……わかんねぇな」

「調子…取り戻せるかどうか?」

「それもあるけどよ…まぁ色々さ」

「わかんないヤツだなラビも」



クス、と小さく微笑よりも乏しい笑いを零したは至極嘆くかのように僅かに双眸を伏せ汽車の扉を押す。

開け放たれた風に乗り女性特有の柔らかな香りが鼻腔を微かに突くが、生憎とそれに気を引かれることもなかった。

あの、扉を開けて自分の隣を越す際に見せた笑みに酷く違和感を覚えたからだ。

彼女は、あのように笑う人なのだろうか、と










「アレンを探しに行こう」











そう、確かにこの時から彼女は何かを失い始めていたのだと 気がつくのは遅すぎた頃の話だ























                                      2007/4/22







おっと、ラビやさんに変化が現れ始めましたぞ(誰だよ
どうも灯來ですまた一ヶ月間あけてすみませんでしたー!!(ローリング土下座/それ前転

しかし本誌の方ではラビの過去が出つつあるらしいですね、じゃん/ぷ買ってないんでわからん
私は連載のこともあり単行本派なんですが、その話乗るの何巻になることやら…
兎に角も次はクロちゃん城、エリアーデとヒロイン一回は会話させてみたいが場所あるかなぁ



さんが突然多く話すようになってきたのも、ある変化の表れと受け取って頂ければ幸い