あいがあればぼくらはこうならなかったかなぁ





























36.重ねた手のように、足りない鼓動






























通信機能を切ったゴーレムを手元から浮かし、夜闇に負けない黒い光沢をちらつかせながらアレン達のもとへ向かう其れを視線で追う。

そうすれば彼らがいる場所に意識が向くのも必然。

がリナリーとの会話を終えたことに気がついた二人は、一度へと視線を向けたが、すぐに戻し歩を踏み出す。

瞬間に二人の顔にうかがえた顔色は、二人とも違うものだった。

アレンは以前からに対しての疑問、困惑。

あの時から彼との間に生まれたこの煩わしい隔たりは今もまだ空気のように、それでも影のように犇めいて二人を覆い隠そうとしている。

まだ互いに何も知らないでいた頃と違う二人の、もう戻れない暖かさに心の何処かが希おうとするもどかしさが。

そしてもう一人、ラビは。

至極、平静を装っているようでもその片目に潜む波紋は消せていない。

己の心情には疎いは、他人のかすかな変化には敏感でいても、それを言う勇気や覚悟など持たないままであった為。

先に行く二人の背を眺めながら、自分とは違う者たちの声に触れられないでいる自分がひどく、ひどく悲しく思え。

夜にまぎれそうなその体を、小さく震わせながら両手を弱弱しく握りしめた。

微かに神の結晶と謳われる其れが、同時にぎしり、と鳴った事にさえ気がつかぬままに。





「―、――?!」





この村の中で一番の、異質を持つ屋敷の敷地内で語り合う二人が、突然気を張る。

少し他念に意識を向けてしまっていたは、空気が変わったのを切っ掛けとしふと俯きがちだった顔を上げてあたりを見渡す。

近くに居たアレンとラビがの近くに寄り、三人が互いの背をむき合わせるようにイノセンスを構えた。

異様な空気の変わり様に、さすがに不穏な空気を肌に感じたは悟られない事を案じながら、小さく眉を潜めた刹那。



自分の、真正面。屋敷の方角。

何かの気迫と同時に戦闘慣れしているというのに、背を掛けるかすかな戦慄と焦燥を感じて己の武器を発動させようと右手を構えたのだが。

星の灯に似た光の粒子を零した途端、ぱきん、と。

何とも軽い音を絶てて、右手首に埋まっていた筈のイノセンスが欠けた。

中に舞う暗闇に何故か間切れない灰のような粒子が舞って。

さらりと、信じられない光景に息を呑む己の感情に合致しない甘い香りが思考をかすめた。






「フッ、フランツが…」


「フランツが殺られたぁああ!」






誰かの、アター・クロウリーだ!という恐怖に彩られた叫びによってようやく意識が現実に引き戻されたのと同時には口元を引き結んだ。

地を蹴る視界の隅でアレンとラビがイノセンスを発動させる音を聴き、クロウリーという名の男がフランツの血を啜る雑音が響く。

飛び出してきたクロウリーはそのまま突き進んで来るが、はひるむ様子も見せぬままイノセンスを瞬く間に発動させて振り被る。

空気を切り裂くだけの空しい音が過ぎ、メリルシアの刃を掻い潜った彼は未だフランツに喰い付く鋭い歯に匹敵するほどの、爪を宿した指先を鋭利的に立ての首目掛けて伸ばしたが。

頬を掠めただけで紅い軌跡が描かれ、不覚にも傷を負ってしまったことに小さく舌打ちを零すが片足を軸に身体を反転させ浮かせた足でクロウリーを蹴飛ばした。

くぐもった鈍い音に入ったかと思われたが、素早いせいか上手く攻撃を与えられなかったようで、彼は蝙蝠のように飛びアレンとラビの攻撃さえもかわすと、嗤った。




「…素早いな、アイツ」


「それより、傷大丈夫ですか?」



僅かな感情を宿らせた視線を寄こすアレンを横目に、は今更の如く左手で頬を拭うと手の甲にべっとりとついた血を見ても。

表情など一変もさせないままに、メリルシアを抱え直しながら軽く溜息を吐いた。



「別に、怪我なんて「慣れてるから構わない?」 ――…、」



「僕は、そんな理由認めませんから」



哀しげに伏せられた彼の銀灰色の双眸に潜んでいた感情は、アレンの心情そのもののような気がした。

だが、は秘かにそんな彼を見つめながら、思う。

彼も自分と同じですべて抱え込んで戦おうとするじゃあないか、なんて自分が言えた義理ではない、けれど。

きしり、と。機械の歯車がきしむような音が、少し沈んだ心の片隅で響いた。




なんでそこまで俺をみようとするんだ、なんてみにくいかげがひしめくようで









「…とりあえず、連携取らないと吸血鬼は捕まえられそうにないな」



静かに沈みゆく嘆息にも似た声色で紡げば、アレンとラビは此方を向いて、頷いた。

銃器型に転換させたイノセンスで再び突き進んでくるクロウリーを足止めするかのように、アレンが地面を打ち砕けば案の定後ろに彼は飛び退く。

その僅かな隙を開けぬように立ち上る土煙りを突き抜けがイノセンスを発動させないまま右手でクロウリーの額を掴み地面に叩き付けるとそのまま鮮やかに宙返りしてアレンの脇に着地。

勢いを増して起き上がろうとした彼の目の前には、巨大化したラビの槌と煌々と瞬く空の月。

ドゴンっ、と轟音を立てて窪んだ地面を見据え槌の上に座るラビは仕留めたかと思ったが、



「うそぉ?!」



ぎらりと瞬く強靭な歯が、彼そのものを示しているようで。

もまさかの事態に少し目を見開き、驚きに胸が僅かに跳ねた。

まさか歯だけでラビのイノセンスを伏せぐなど、並大抵の人間にはできないことで、奇怪の噂が今更ながら現実味を帯びたよう。

クロウリーはフランツを抱えたままラビのイノセンスを彼事後方に抛る様にした直後、当たれば一溜まりもない彫像が眼前に迫りラビは危機感を覚えたが。

するりと胴に回されたか細い腕が、ぐんっと彼の身体を引きイノセンスの衝撃によって破壊された石の破片が視界を塞ぐ。

事態を飲み込めない彼が、唖然と口を開いていたが背に感じる微かな体温のもとへ視線をゆっくりと向ければ、が槌の柄に掴まりながら己のイノセンスを足場にして、あの接触を阻んだのだろうか。

僅かな息を吐き、ラビに一度視線を向けたがそのまま沈黙を守りつつ事が進んでいるアレンとクロウリーのほうへ、彼女は意識を向けた。

助けられたことに礼を言う暇など与えないかのように。

゛自分は犠牲になるのが当たり前゛なのだと無言で訴えているかのように。







「――…なんなんさ、」







至極、愉しそうに嗤う吸血鬼の声など気がつかないまま零した繰り言は


ぱしゃん、と何かがの足元で黒い水面に落ちる音に掻き消された

















                                        2008/9/11





帰ってきましたD灰連載。パート2。。。すんまs(ry
約一年ぶりにかえってきましたどうもごめんなさい(…
ちょ、ちょこちょことだけど帰ってきたから勘弁してください…!
方舟編のところなど漫画読んで再熱しましたありがとう星野先生!
というわけで、まだこの連載を読んでくださるお方がいらっしゃる限り私は続けたいです。さめぬ限り終りなんてなくていいと思う私がいます