「 恐らく、数年以内には死ぬ 」









そう言った彼女は小さく笑みを零し、静かに双眸を閉じ た




















29. 見えるモノ、みえないココロ






























達についての話が終わり、皆は各々の行動をしている。

コムイとブックマンは其の部屋に残り、今後についてなど語り合い。

は、一旦考え事がしたいと言いある病院の一室に。




そしてアレン、ラビ、の三人は病院の前にある開いた敷地で話していた。

しかし其の会話も何処かしどろもどろ、というよりも色々と感情が複雑に入り混じったような雰囲気の為に会話が弾まない。

静寂とまでは行かないが、その場に居る全員が何か考え更けているように妙に静けさが常にあって。

はらはらと降り続ける雪の中で、アレンとラビは雪だるまを作り、は少し離れた塀に寄り掛かり彼らの様子を眺める。

ゆっくりと見上げた空は何時もと同じ灰色を纏い、冷たく肌を刺す外気の中一つ息を吐けば白い空気が舞う。





「しっかしまぁ、」





突然静寂を破ったラビの声にアレンとの二人は反応し、彼の方に視線を向ける。

ラビは雪だるまの顔に色々な物をつけながら、再び口を開く。




「何とも大変な事になってきたみてぇだな。オレの予感だけど」

「…予感?」

「そ、今度の任務はかなり長期のデカイ戦になんじゃねーかな。伯爵が動き出したんだ」






(……伯爵、か)



彼らの会話を聞きながら、は一人視線を空へと移し静かに瞳を瞑る。

自分の異変に関しての話をした時の皆の反応は、予め予想は出来たからそんなにも気にかけなかった。

しかし、それでもあのような悲しそうな色と、僅かな怒りと焦燥、心配、様々な感情が混ざり過ぎた空気は些か辛い物だったのを今でも覚えている。

初めて、ではないけれど人間の視線と感情という物が恐ろしいと思えた。

感情とは色々な物に左右されやすいというけれど自分の事に関して、余り余計な感情は持って欲しくないというのも素直な考え。

戦争というのは余計な情があればあるほど、辛い物にしかならない。

それ故、戦いという世界に身を投じている皆と共に居るからこそ。更に元は居る筈のない、自分に依存をするな、と。

薄暗い灰色の空を見上げたままだった視線を下げれば、何時の間にかアレンが其の表情に影を落とし、静かに口を開いている所だった。












「……人間を殺すためになったんじゃない」













彼は一瞬怪訝そうな顔をしたが呼び止める前に、そのまま身体を翻し街の方へと歩んで行ってしまった。

微かに伸ばしかけた手が虚しく宙を少し彷徨っていたが、手を上げたままな事に気がつきゆっくりと下ろし、ラビの方へ視線を向ける。

彼はアレンの去っていった方に暫く視線を向けたまま何か考え耽るように、静かにその場に居たがの視線に気がつき此方を向く。



「…アレン何かした?」

「ん?いや、色々と考え過ぎてんじゃねぇの。やっぱガキだ」



そう言ったラビを見つめていたが、は不意に塀から背を離すと同時に軽く溜息を吐く。

今まで動こうともしなかった彼女が歩き出した事に疑問を覚え、彼も立ち上がるとの背を眺め呼び止めた。



、何処行くんさ?」

「…アレン今左眼怪我してて使えないから、街中にアクマが居ても応戦できない可能性ある」

「あー…、なるほど」



彼の返答を待ってたのか、そうでもないのか定かではなかったがラビがそう紡ぐと同時には歩を再び進め出す。

彼女の表情は焦りも、何も浮かべられておらずまるで静かな景色に居ると織り交ざり簡単に紛れてしまいそうな程、何の色も無い。

余りにも、アレンが危ない身であるとわかっていても冷静さを欠かさないその表情が酷く、怖いと。

少し離れた場所での表情を眺めていたラビの心境には何か言い語れない、不安と恐れ、が生まれていた。




……恐 れ  ?




彼女の表情は確かに、乏しい所があると思っていた。

つい先ほど出会ったばかりと言っても過言ではないけれど、あの半年前の事を思い出せば確実に何かを失くしている。

あの、何処か薄くても華やかさはあった笑みか。

それとも、彼女自身の何かか。


彼女達の経緯を聞いた際は全てがとてもではなかったが、信じられなかった。

ブックマンとなる為に決意して歩んで来た道の中にも無かった、此の世界の裏側にも今だ描かれていない彼女達の事。

いや、正確に言えばの事か。

の親友であるは、異世界から来た事と特質な異変が起こっている以外は何も無い、普通のエクソシストと人間。

しかしの場合はどうだろうか。彼女には話によれば、異変がありすぎる。

イノセンスの形質が第二解放をしているわけでもないのに異質な物に変貌し、そして彼女の何かが、変わるという。

まだその姿を見た事がないから、どのような物なのかわからなかったが酷く、思い浮かべるだけでも背に冷たい何かが落ちる。


本能の 警告か?




それとも、ブックマンとしての  好奇心か?




静かに首を左右に振り、もう大分前を進んでしまっていたの背を追い歩を進め出す。

未だ胸中には先ほどから渦巻く蟠りの様な物が、燻り生きているように存在感を訴えていたが思考を切り替える為に深く息を吐く。

ゆっくりと、上げた視線に映ったのは街中に消えた一つの漆黒。



































道行く人々が、怖かった。

一体どうして、と問いかけられてもきっと答えられない。聞くヒトも居ないから。



アレンは未だ落ち着かない心境のまま、団服のフードを深く被り道行く人々の間を通り歩んでいた。

雪が舞う景色の中には酷く目立つであろう自分の黒を、一瞬思い浮かべたが頭を軽く左右に振り再び前を見る。

こうしている間にも心の中には余計に、不安を煽る様な事ばかりが浮かぶ。

そして何故か、のあの時の顔が浮かんだ。




『 数年以内には死ぬ 』





そんな、ヒトにとって一番怖いのは死ぬ事なのに。

死んでしまったら自分という自分は無くなる、生憎僕は死んでも魂は再び巡るということは信じてなかった。

本当に、死んでしまったヒトの魂が巡り再び現世に現れるというなら、マナだってきっと何処かで生きてる筈なのに、居ないから。

彼女は死という物を恐れていなかった。

それとも、死んでしまいそうな経験をしてないからこそ言えるのか、わからない。

そういえばマテールの時にも、神田と口論している際言っていたのを僅かに聞いた事を自分は未だに覚えていた。



『 生に縋る感情なんてとっくの昔に捨てた 』




どうしてそんな事を簡単に言えてしまうのか、僕にはわからない事が多すぎた。

他人というのは必ず何処かで壁を作り、壁があるからこそ個々に有り生きてるのだから仕方が無い事なのかもしれないけど。

しかしどうしてか、に関してだけは知りたい。知りたかった。

それでも彼女は何も語ろうとしないし、強制するのも好きじゃない僕にはこれ以上介入するのは難しいのだろう。

自然と、考える度溜息を吐きたくなり心が重くなる。

静かに見上げた空でさえ今は灰色に紛れて、綺麗な雪は自分の瞳に映らない。

重く垂れ込めたような重さが、ゆっくりと感情と心の奥を埋める前に其の色から視線を外し意識を街並みに戻した時。













「エクソシストでちゅね」












カチ、と銃器を突きつける音が自分のすぐ傍で聞こえ、

頭部はフードを被っているのに、其の金属の冷たさが感じられる程心が冷えた刹那。







ドォンッ!と轟音を立て灰燼が舞う。

アレンは爆風と衝撃によって僅かに離れた場にへたり込むような格好になった為、何の被害も受けなかったが先ほど居た場所は炎が舞っている。

そして其処には少し大きめの槌の上に乗り、静かな表情で佇むラビの姿。

彼が乗っている槌の先にアクマの残骸が散乱している為、彼が壊したのだろうとすぐに判断出来た。

周囲では突然の出来事に錯乱し街の人々が悲鳴を上げるが、ラビは気にした様子も無くアレンから視線を逸らすと口を開く。



「アレン、大通りはヒトが多くて危ねェよ。アクマに背後をとられる」



そしてヒュ、と軽く風を斬る音を残しながらも槌を持ち直した。




「人間を見たらアクマと思わねーと、お前今アクマを見分ける眼使えねェんだろ?」

「ご、ごめん…ラビは今どうして…」

「ん?」


少し躊躇いがちに紡がれかけたアレンの言葉は、突然のアクマの攻撃に掻き消される。

家屋の上から降って来た鋼鉄の塊が彼らを狙うように打ち出され、当たるかと思われたが彼らの前にが現れメリルシアを構え。

斬り捨てるわけでもなく、そのまま軌道をずらす様にメリルシアの巨大な刃で流せば耳を劈くような金属音が響き鋼鉄の塊は地に落ちた。

少し、腕に響いたのか僅かに眉を顰めたがすぐに表情を戻すとアレン達のほうに駆け寄りは軽く息を吐く。


「怪我はして…ないよな?」

「え、あ、はい…。こそさっきの…」

「何ともないよ、それより油断しない方が良い」


二人に向けて幾分か穏やかな表情を浮かべていただったが、先ほど突然攻撃の繰り出された方向を睨むように空を見上げる。

アレンとラビも其方の方を見やれば、再び奇怪な形態をしたアクマが鋼鉄の塊を打ち出す所だった。

が再びメリルシアを構え前に出ようとしたが、脇からラビの腕に遮られ彼を見れば笑みを浮かべている。

恐らく此の場は任せても良い、という事か。

そう判断したは彼に頷き返し数歩下がると同時に、ラビは右手に携えていた槌を回し、口元に薄っすらと笑みを浮かべ口を開いた。






「大槌小槌、満満…






ラビが言葉を紡いでいく間に、いや其の声に応えるように槌は傍に居たアレンを驚かせる程巨大化。

そしてそれをいとも簡単に振り被り、彼は向かい来る鋼鉄の塊目掛け左足を前に出して軸にし、身体を捻り思い切り振った。


「こんな大通りでんなモン投げっとぉ…危ねェだろアクマ!!」


そのまま打ち砕き、勢いを付けすぎたせいか家屋まで破壊してしまったがラビはさほど気にしてないかのように振舞う。

近くで其の光景を見ていたとアレンの二人は顔に苦笑を浮かべるが、ラビが場所を変えようと言い出した瞬間声をかけられる。

自分達を指差す街の人々、其の中から歩んで来る警官。

は面倒なことになったと思い顔を眉を顰め、静かに下ろしていたメリルシアをゆっくりと持ち上げいざという時の為に構えた。


「連行する、来い!」

「あ、いや僕達は…!」


アレンは必死に抗議するが、警官は聞こうともせずに彼の腕を引くが突然ラビが槌の切っ先を警官に突きつける。

彼が行動を起こしたのを見て、も警官の腕をアレンから取り払いメリルシアを目先まで掲げ僅かに腰を低く落とす。


「ラビ、?!」


二人が警官に対し僅かな殺気を漂わせている事に、疑問を覚えアレンは声を上げるが二人は動じない。

それ所か二人に武器を突きつけられて、焦りの色を浮かべる警官を未だに睨み付けている。

必死にやめろ、と叫んでいた警官の身体が急に形を変えたのと同時に銃声が響き渡った。

各々発動させたイノセンスで銃弾を弾き飛ばし、後方に下がりながら三人はその場を離れ誰も居ないような場を目指す。

高い塀を乗り越えて、降りる寸前にラビが口を開く。


「しっかし、反応遅いぞアレン」


「…アクマは何時形態を変えるかわからないから、戦闘体制怠ると死ぬかもしれないんだよ」


紡ぐ二人の方を見て、アレンは静かに表情に影を落とし謝罪の言葉を紡ぐ。


「…どうして二人はわかったの?」


問いかけられた二人は一瞬お互いに視線を交えたが、すぐに逸らすとは静かに双眸を閉じた。

そして地に着地するのと同時に、メリルシアを掲げゆっくりと瞳を開くと空を見上げる。











「……わかった訳じゃないんだよ、アレン。初めから全部信じてないし、疑って生きてるんだ」
























                                      2006.12/2








何だか歯切れが悪くてすみませ…久しぶりの更新となりましたね´∀`;
本当久々だと内容も忘れるし、文の書き方も忘れて調子取り戻すのが大変で…!


最後辺りの台詞、本当はラビのでしたがさんに言わせたかったんです
彼女、というか彼女達(さんやさんも)初めから人を余り信用しない人たちでもあります
だからあまり打ち解けることはしない、みたいな
というかやっと四巻の初め辺り終わった…遅いな本当この連載…(苦笑