「 人間は伯爵の味方に見えちまうんだなぁ 」
30. An Exorcist's Sarabande
突然彼らが背を合わせ立っていた場所に、鋼鉄の塊が打ち込まれ皆は散り散りになる。
咄嗟に避けた為に勢いを押し殺せなかったアレンは地に右手を着け、身体を反転させると同時にラビとが居ると思われる方向へ視線を向けた。
「ラビッ、!」
「ダイジョブ!雑魚ばっかだ」
「随分と礼儀なってないアクマばかりだけど」
間も立たない内に返ってきた二人の声には変化無く、先ほどと同じ声色からして大事には至ってない事に安堵する。
しかしアクマはアレンに心を落ち着かせる一息も吐かせる間を与えないかのように、己の身体から生えた銃口を彼に向けた。
勢い良く振り返ると共に耳を劈くような銃声と、盾代わりにしている左腕から伝わる衝撃。
其れらはアレンの胸中に蟠る感情を紛らわせるまで至らず。
一層、キシ と響く音を感じるように彼の感情を重くする。
今まで忘れてしまっていた
まだ師匠の下で修行の身であった時、一つ聞いたことがあった
『 何で、いつも団服を着てるんですか? 』
知らなかったからこそ問いかけられた言葉
知ってから、後悔した問い掛け
師匠や他のエクソシストである皆は、僕のようにアクマを見分けられる眼を持っているわけじゃない
だからこそその団服は、
『 馬鹿弟子、バレるために着てるんだよ 』
アクマの敵だよ、と主張する為に
大切な人よりも先にアクマと対峙し、守る為に
近付くものを、疑える よう に
師匠は僕を一瞥し、手に持った煙草を再び軽く口元に添えて
瞳を薄く閉じてこう言った
『 お前に…こんな不安は無いのだろう アレン 』
ギシリ、と何かが鳴った。
其れは自分の心の奥にある何かの悲鳴か、それともキツク噛み締めた口内から漏れた音か。
判断する暇も無くアクマは容赦なくその銃口を向け、アレンを撃とうと標準を定め続ける。
アレンは己の左腕に埋まるイノセンスを発動させ銃器型に転換、向かい来るアクマを次々と標準内に定め其の力を放ち続けた。
戦闘中というのにも関わらず思考は唯、己の忘れてしまった過去とラビ、そしてが言った言葉がぐるぐると、目まぐるしく混ざり合い思考を乱す。
一人の女性を人質にとったアクマの頭部を破壊すれば、女性はアレンの傍に駆け寄り泣き崩れた。
その女性を静かに見下ろしていたアレンはゆっくりと屈み込み、ゆっくりと口を開く。
「大丈夫?」
女性はアクマという者達に触れた恐怖の余りにか、両手で深く顔を覆い隠したまま泣き続ける。
しかしアレンが更に近付こうとした瞬間、彼の額にカチ、と無機質で硬質な。
銃器を突きつける音が響いた。
ドン、と白き世界に重く音が響く。
それは女性に扮していたアクマの銃器音ではなく、アレンが発動させていたイノセンスの攻撃音。
彼は静かに瞳を伏せながら、力を失いイノセンスの銃口に凭れかかるようにして崩れ落ちて逝くアクマを見据えた。
余りにも、呆気ない終わり。
彼らは元は人であったのに、千年伯爵のせいでまた再び憎悪と殺戮の世界に巻き込まれ。
殺したくも無い最愛の者を、手にかける。
ならば僕は何をすればいいのだろうか、と心の内が問いかける。
それじゃあ僕はこの団服と共に、覚悟を決めようと思考が告げる。
静かに、静かに段々と雪の降る景色の持つ静寂音がその場を包み込むように浸透してくる度に凍てつくような寒さが、肌を撫でた。
僅かに閉じかけていた瞳をゆっくりと開き、自分の足元に広がるアクマの残骸を一瞥し立ち上がろうとしたその時。
ガシャンッ と自分の後方から機械質の者が奏でる音が響く
まさかまだアクマが残っていたのだろうか、という急に込み上げる焦燥感と本能のままにイノセンスを発動させたままの左腕を押さえ。
身体を僅かに捻り勢いをつけたまま其の腕を敵がいるであろう場所に向け瞳に力を込め細めた。
しかしアクマを倒すべく湛えた闘争心は一瞬の内に驚愕と、言い様も無い悲しさと後悔の念に変わる。
覚悟を決めた後の人間の行動は余りにも真っ直ぐで、止めようが無い。
発動しかけたままの左腕は後方に居た者、の首元に無残にも外しようがない程近距離で構えられていた。
は何も語らないまま、驚いたような表情も浮かべず余りにも静か過ぎる平静を湛えていて、アレンを深くも薄い紫色の双眸で捉えた。
彼は自分の共に戦う仲間でもあり、大切な、自分が今まで抱いた事もない感情を抱く少女に向けた事を深く後悔し。
どう、すればいいのかわからず。
「……ッ…」
ただ、震える唇を噛み締めて零れ落ちそうになる。余りにも醜い言葉を押さえるしか出来なかった。
俯き自分と眼を合わせようとしないアレンを見ていたは、一度軽く息を吐くと己の首元に当てられている彼の腕へ静かに手を当てる。
そしてこの場の静寂を打ち破るかのように、彼女はゆっくりと口を開いた。
「アレン、それで良いんだ。俺を…、全てを疑って敵だと思え」
「―…ッ何言って…!」
「俺は人間じゃない、この身体で人間で居て良い筈が無い。この右手に有るイノセンスも到底神の結晶なんて呼べるモノじゃないから」
「そんなわけないッ!!」
思わず張り上げてしまったアレンの声に、は驚く事もしなかった。
いや、多分彼女なりに予想していたのだろう。
僅かに霞む視線をへと向ければ、彼女はただ静かに、本当に静かに佇んだままで動こうともしない。
しかし先ほどまで湛えられていない色が、の表情にはあった。
戸惑いと、微かな焦燥。
間を置くことなく彼女の声が、深々と積もりだしてきた雪の色に白く染まりつつあるこの場所に響いた。
「――だったら私は何を根拠に人間だと言えば良いんだッ!」
その場に再び、静寂が満ちる。
アレンは何を返せば良いのか、何を返したら良いのかわからず思考が困惑し。
イノセンスの解放を解く音が響き彼の左腕は元の赤黒い皮膚に覆われた手と化し、支える物が無くなったの添えられた手は静かに下がる。
深々と、降る雪の音だけが聴こえるような静か過ぎる場所だった。
互いに俯いたまま時が過ぎると思われたが、不意にが身体を翻すと歩を進め出す。
思わず見上げて彼女の背を視線で追うと、視界に入ったの背は酷くこの白さを広げ続ける地に消え入りそうな程悲しく、小さく。
アレンは後を追おうと立ち上がるが聴こえた言葉に進め出した歩を止める。
「御免、」と小さく零されたの言葉。
そんな言葉が聞きたかったわけじゃなかった。
何でそんなにも自分を否定するのか、とただそれだけの答えが欲しかったのには謝罪の言葉を残して去って行った。
伸ばしかけた手は何処にも届かない。
虚しく過ぎる空気だけを其の手が掴むこともせず、空気に晒されて存在するだけ。
酷く空虚な存在を感じた、だけ。
アレンはゆっくりとへ届くように伸ばしかけた手を下ろし、其の場に立ち尽くし双眸を強く閉じた。
心の内に生まれて来るのは後悔の念か。それともただの悲しみか。
深く、深く澱んでくる心の奥に応えるように閉じていた筈の瞳から一筋、冷え切った頬には冷た過ぎる雫が流れた。
折角彼女と近づけたかと思った矢先、また離れてしまう。
どうしようもない悲しみに暮れ
静かに俯いたままのアレンは、アクマを破壊し終え彼の元に近付いたラビにも気がつかず白き地面を見続けていた
2006.12/19
こうしてどんどんシリアスさが増していくのです(コイツは
久しぶりの更新がこんな暗くてすみませ…!しかも文もちょっと書き方が変わってしまったよーな。
ラビの出番も最初と最後だけだったという、つ…次こそは…!
まぁこんな感じにこの連載は暗いのです(何)
ちなみにやっと三十話に到達、この話のタイトルは『An Exorcist's Sarabande』なんですが、
『Exorcist』はエクソシスト、『Sarabande』はサラバンド:17、8世紀の3拍子のスペイン舞踊という意味。
直訳するとエクソシストのサラバンドなんですがまぁ、深い意味ないです(…
イメージソングをそのまま引っ張ってきもので…引っ張ってきたタイトルの曲はクラシックです。確か。
念のためですが、ヒロインさんの一人称が一回変わったのあれ間違いではないので(笑)感情が高ぶると女性っぽく戻る、みたいな