きえていくまえに、すこしだけきみにあいたいとおもった

















46.せかいの中心で"  "を叫んだころに




















――ザ ッ





『よい  夢を、 少年』





―――ザザッ  








闇だけが心地よいと思っていた頃が私にはあった。


この世界にきたばかりの時だ。


何が、何だかよくわからないままにこの世界で生きていくことを余儀なくされ。


力ない私たちでは生き抜くことさえ難しくて。


今まで精一杯、なんて言葉さえも知らなかったくらいに楽観的に生きてたわたしたちが。


どうして、命までかけていかなければならないんだろうかって。



正直、師匠から最初話を聞いたときは馬鹿らしかった




だって、そうだろ?こんなのおとぎ話の、中の世界だ。


AKUMAとか、イノセンスとか争奪戦争とかノアとか―――知らない。


知らないままで生きてたなら今頃、なにしてたかなぁって。


不意に考えてたら、唐突に泣きたくなったころもあった。


それからだった。夜を覚えたのは。


みんながねむりについたころ、誰にも悟られないこどくのいばしょ。


イノセンスに慣れなくて、帰りたいけれど帰る術がわからなくて。


肌を打つきれいな夜風が冷たくて、雑音が全くないこの静寂がひどく心地よくて。


明かりが薄いひんやりとした闇が、落ち着くと。









でも、いつからだっただろう。






――――ザッ  ザー…







『  』





だれかが、わたしのなまえをよんでいたのは






不意に、意識を覚ましたの視界に映ったのはやはり闇。

誰かが呼んだような気がしたのに、そこには誰もいない。

小さく落胆して視線を伏せれば、さっき聴こえた声がまた聴こえた。

今度は、はっきりと。





『 ―…が、傍に居ますから 』

「    しているぞ、壊してくれ 」





でも、重複して。

途端、懐かしい声が聴こえたかと思えば頭が割れそうなほどの痛みが押し寄せて。

無意識のうちに頭を抱え、堪える様に瞼を伏せれば。







『 僕は、まだ… 』





純白い彼が泣いている気がして。














「―――ッ、」



風の香りが変わったのに気が付いて、はしずかにきつく閉じていた瞳を開いた。

其処には深く茂った竹林だけが広がっていて、僅かに零れ落ちている月光だけが頼りなほど仄暗い夜の中。

竹の葉の間からちいさくのぞく月は、やけに大きい。

そして、とても静かだった。

戦争の音を忘れ、人々の喧騒を失い、命ある者たちの声が消えてしまったかのように。

あまりにも静かすぎるこの地は、どうしてか。

先ほどまでの突然の、師匠との戦いやイノセンスについての事実、そして千年伯爵との邂逅。

何もかもが理解するにはほど遠く、痛みが治まらない思考がさらに軋む。

は苦しげに眉をひそめ、頭を抱えながらもゆっくりと地についたままの脚を立てた。

立ち止まってはいられない。

心の奥底から、誰かが引きとめるように心を呼んでいるような錯覚を覚える。

メリルシアの忌々しい姿はいつのまにか、右手より失せていて、やはり自分はイノセンスを失ったのだと。

力を無くしたことに酷く絶望を覚え、それを認めた瞬間、




「………っ、ふ…ぇ」




ぽたぽたと、両の眼の端から落ちる滴が急に溢れ出した。

今まで堰き止めていた感情が湧きおこるように、は小さく身体を震わせながら。

それでも、立ち止まりたくないと力が入らない脚を半ば引きずるような形で歩いた。

此処にいたくない、だけど戦う術を失った俺はどうしたらいいんだろう。

誰も教えてくれないその問いかけだけが、思考を覆って、言葉が詰まる。




抱きかけた希望が灰に成り、時間と共に薄れていく気がする




脚元から確かに感じるそれが、を静かに責めている。

両手で目を覆って、流れ続ける涙を拭っても、帰って来ない。




「ちく、しょ…ッ 」




何に対する悔しさなのかも、定かじゃないまま。

はただ己の非力さに嘆くしかできず、不意に自分の漏らす嗚咽に混じり、声が。

聴こえた気がして。





「―――ッ、  アレ ン…?」





どうして、彼の名前が口から零れたのかわからない。

そして、彼らが今どうなっているのかもわからない。

彼の名前を口にした途端、忘れていたものを段々と思いだしてきたようで。

アレンはあのあと無事なのか。

リナリーはどこにいるのだろう。

ラビたちは。


宛てもなく彷徨いそうになった矢先、少し先に、開けた場所があるのに気づき。

やけに月の光が差し込んでいて、夜だというのに関わらず光が五月蠅い。

覚束ない足取りで、ふらふらとその場所にたどり着いて。

音のない、景色には言葉を失った。










そこには、夥しい量の紅い水たまりの中に沈んだ、少年が横たわっていた。

空を見上げるその双眸には、いつも浮かべていた優しい光はすでにいない。

月明りに照らされて、眩しいくらい、彼の白髪はきれいすぎて。

静寂の祈りに抱かれたアレンは、片腕を失った姿のまま、彼自身の時を止めてしまっている。








どうして、というまえに




「 ―――なん、で 」




わたしにいつもむけてくれた、えみがみせてほしいと




せめてあんしん、させて






「ッ   ぃやあァアアアア!!」








わずかなこどうのねが、










                                     2009/7/13





しろきなきがらに、てをのばすとき こころはいたみにしずんだ