結局余り寝れなかったなー…、
9. 淡き朝焼けに消える事も、
「―――……」
あの後、教えて貰った部屋に着き鞄とコートをベッドの脇に置いてから直ぐに寝てしまった。
ズボンにベルトを巻いたままだったし、上着代わりに着ていたシャツも結構長い旅をしてきたようなものだったからボロボロ。
使い込んできたものでもあったし、服に困るだろうからと師匠から貰った物だった。
だからなのか、古くなってきても手放せなかったし何よりサイズも丁度良い。
此の世界の服は何というか東洋系の人に向いてないのか、それともただ単に自分の体格が合わないのか。
丁度良い服が無くて困っていたために、普段はコムイに団服だと教えて貰った黒いコートを羽織りっぱなしだった。
「…起きたかな、二人とも」
其れは勿論との事だ。
生憎昨日二人の部屋の場所を教えて貰ってなかった為に、探そうにも探せない。
コムイだったら知ってるだろうか、と少々寝癖のついた髪を手櫛で直しコートを羽織って部屋を出た。
は科学班室を目指し歩いていた途中も教団に入った時と同じ様な状況に苛まれていた。
途中で擦れ違う人や、自分が向かう先に居る人の殆どが興味本位なのか如何かわからないが視線を引っ切り無しに向けてくる。
余り心地良いと思えないこの状況に嫌気が差してきて、は知らず内に少し眉を細めていた。
「あ、。おはよう」
後ろから急に声をかけられて少々驚きながらも振り返ってみれば、視線の先に居たのは笑みを浮かべているリナリーだった。
彼女はこんな朝っぱらから仕事なのだろうか、手にはバインダーと資料の束を持っており両手塞がり状態。
しかしそれを気にしないのか、そのままの近くに寄り立ち止まる。
「あー…、おはよ…」
「は朝に弱いの?声が凄く伸びてるじゃない」
くすくすと小さく笑みを零す彼女はとても可愛いと思う。いや、お世辞じゃなくて本当に。女の俺から見ても。
どうしてそんなにも素直に笑みを零すことが出来るのだろうと思いながらも、柔らかく笑みを湛えて彼女に返す。
「ん、俺低血圧なのさ…毎回こんな感じだよ」
「そうなの。あ!そうだ、兄さんがの事呼んでたわ。今から来て欲しいんだって」
「おー…わかった、科学班室で良いのか?」
「私も丁度行く所だったから、一緒に行きましょ」
「んじゃちょっと良いかな」
そう言いはリナリーの片手を塞いでいた資料の束を片手で受け取った、というよりも取ったといった方が良いかもしれない。
急に手が空いたこととが資料を持った事に驚いたリナリーは一体何事なのだろうか、と言いたげな表情をしながらを見やる。
それに気がついたのか彼女は視線を少しよこした後、資料を持ちながら歩を進め出す。
「こんなに持ってんの大変だったんじゃないか、朝っぱらからこんな量のを紙束さ」
「そんな事ないわよ、は疲れてるでしょ?私が持つから…」
「いーの、リナリーだけに大変な思いさせたくないよ」
さらりとそう紡いだの顔は最初見た眠そうな表情を湛えておらず、柔らかな笑み。
そんなの様子を見たリナリーは心のどこかが、温かい感覚に包まれるような気がして思わずはたと歩を止めてしまう。
何処か口調や雰囲気は男っぽくても、矢張り女性特有の柔らかさが彼女にあった。
他人を思いやる事が、上手いのだろうかと。
少し先で振り返り私を呼ぶ声が、酷く温かくて好きになれる声色だ。
リナリーは「今行くわ、」と笑顔と共に声を零した。
「…その気持ちを変える気はないんだね?」
ひっそりと静まり返っている室内に、コムイの確かめるような声だけがやけに響く。
科学班室は昨夜と同じような、しかし何処か違う雰囲気を湛えていた。
何時もコムイが居るデスクの前にはとが佇んでおり、は少し顔を俯かせながら軽く頷き返す。
の方は少し視線を宙に彷徨わせ、軽く息を吐いてから再びコムイの方へ視線を戻し強く頷き返した。
「うちが前々から思ってた事だからね、仕方が無いことだよ」
「私も、イノセンス持ってなかったから。隊長の足手まといだけにはなりたくないの」
「そうか…辛い決断、なんじゃないかな?」
「別に、ただ使い道が無いのに居るのは邪魔なだけだし」
はそう言うと軽く眉を顰めて頭を掻きながらも深く溜息を吐き、隣に居るへと視線を投げ掛ける。
視線に気がついたも軽く顔を上げて、彼女に対し軽く頷き返した。
その時、部屋の扉が開く音がして皆が振り返ってみれば片手に資料を抱えたとリナリーが入り口付近で佇んでいた。
二人は何も語らずにただ黙って自分達を見る三人を不思議に思い互いに視線を合わせた後、三人の近くに歩み寄る。
「隊長、おはー」
「ん?おはよ。てかさ、…この空気は何だ?」
「何でもないよ。ね、とコムイさん」
明らかに何時もと様子が違う、そして室内に満ちる雰囲気が異様な事には少し疑問を覚えながらもの問い掛けに頷き返した二人を見る。
一体何があったんだろうかと問いかけたくもなったが、深く探求するのはいけないだろうなとその思考を押し込め自分を呼んでいたコムイに眼を向けた。
「で、用事あるんだよな?」
「ああ、ちょっと申し訳ないけど君と君は席を外して貰えるかい?」
「わかった、じゃあ隊長外で待ってるよ?」
「ん、了解ー」
二人が部屋から出て、ドアが閉まる音が響き消えるのを待っていたかのようにコムイは静かに溜息を軽く吐く。
その間にリナリーに向かいのソファーに座るよう促されて、其れに従い座ってからも同じ様に軽く息を吐いた。
どうも今日の朝は気分が余り優れないな、と心の中で悪態をつきながらも表面上は平静を装う。
自分よりも目の前で溜息を吐いた彼の方が疲れているだろうから、という配慮から来た考えであったが。
少し経った後リナリーが持ってきてくれたコーヒーを啜り一息ついたのか、コムイがやっと顔を上げてを見据えた。
其の表情は何処か真面目な雰囲気も湛えられていて、思わず軽く息を呑んでしまう。
普段、騒がしい人ほど真面目になると驚く程違く思えると誰かが言っていた様なことを思い出した。
「二人についての事なんだけどね、今朝決めたんだよ。君と君は教団待機組という事になってもらったんだ」
「…教団待機組?」
訳が分からない、と言いたげな表情をは湛えつつコーヒーに少し口を付けてそれを啜る。
コムイは被っていた帽子を静かに取って、それをデスクの上に置いて再び口を開く。
「つまり実際に任務に出るのは君、君一人という事になるんだ」
「ああ、そうゆう事」
「……驚かないのかい?」
意外と、驚いたり何でだ!と問いかけてくるものとばかり思っていたコムイは拍子抜けしてしまい思わず素っ頓狂な声を漏らす。
しかしは表情も変えずにマグカップから口を離すとそれを静かにテーブルに置き、両手を組んでソファーに身を沈めた。
彼女の表情は驚きも何もしていなかった代わり、酷く。落ち着きすぎていた。
まるで二人が言う事は既にわかっていたと言いたそうに
「何時だったか二人が言い出したんだ。俺が脚を撃ち抜かれたことあっただろう?あの後だったかな」
"自分達が隊長に怪我させたみたいなものだよ、だから私達居ないほう良いんじゃないのかな"
「そんな事言い出すもんだからさ、困ったよ」
「それで君はどうしたんだい…?」
コムイの問い掛けに一瞬きょとん、と眼を点にしただったが言葉の意味がわかったのか「ああ、」と声を漏らす。
同時に両手を軽く合わせながら少し間を置き、口を開いた。
「ああ、引っ叩いた。思いっきりね『馬鹿言うな!』って言いながら」
「引っ叩いたって…二人はそれで納まった?」
近くで話を聞いていたのだろうか、リナリーは視線を此方に向けつつも器用に手元で資料を束ねながら聞いてくる。
は一度彼女の方に視線をよこして軽く首を横に振り苦笑を送る。
「やっぱそう簡単には治まらなかったけど、言ってやったのさ。『だったら俺は何の為に生きれば良いんだよ』って」
存在理由にしたかった、それでも二人には重荷を背負わせたくなかった。
しかし師匠が言うにはも実践にはあまり向かないけど十分役に立つイノセンスを持っていて、は持っていなかった。
けれどはイノセンスを持つ自分達と共に居れば必ずアクマとの戦いに巻き込まれてしまうだろう。
それに、本当に実践に出られるのは殆ど俺だけだとわかった。わかってたから余計に存在理由。
違う、この見知らぬ世界の中に戻る場所が欲しかった
アクマを壊して、もう既に血に濡れてしまった此の手を更に穢しても帰れる場所を。
荒み病んだ心を癒してくれる人が居る場所が、欲しかった。
それだけの、ただの自分の我侭に近い願い。
でも二人は、
「そしたら二人泣いて謝ってきた、ごめんなさいって何回も何回も。逆にこっちが居た堪れなくなったさ」
そう言うの顔は酷く苦笑が強く出ていたけれど、矢張り二人の事が大切なのだろうか。
まるで今の彼女の表情は子供を慈しむ親のような、心配する大切に思う好きだと思ってる人の顔。
本当に、此の世界の中でたった二人しか居ない。
たった二人だけの大切な、存在が好きなのだろうと素直に受け取る事の出来る表情だった。
「君は優しいんだね、思われてる二人が羨ましいほどだよ」
コムイがそう笑みを湛えて言えばは既に浮かべていた苦笑を更に強め、首を左右に軽く振った後ソファーから立ち上がる。
身体を翻した彼女の表情は見えなかったからどんな表情をしているかわからなかった。
それでも、声が柔らかかったから怒ってるわけではないと。
「ただ我侭なだけだよ」
小さく笑みを零していた声だった
2006.9/30
次はアレンの大食い番組です!(違)いや、食堂あたりのお話になるかなと…(笑
にしても進むの遅いですね本当私の連載は、頑張って書くとどうも長くなるようで;
この連載、サイト上で一番良い物に仕上げたいという野望も密かに持っておりますもので…v